「業務ミス」で教員に95万円請求──個人への賠償請求は合法なのか?:民間企業のケースも解説(5/6 ページ)
川崎市の市立小学校で、教員のミスによりプールの水が出しっぱなしになった結果、約190万円の上下水道料金が発生した。市は損害賠償金として、約95万円を、教員と校長に請求した。このように業務上のミスをめぐって、個人へ賠償請求することは合法なのか?
しかしこの減給処分、実際に適法に運用するには細かい条件がついてくる。もし読者諸氏のお勤めの会社や店で減給処分制度が存在する場合は、果たしてそれが適法かどうか、次の要件をよくよく確認いただければ幸いだ。
(1)就業規則に「懲戒処分として減給できる」旨が定められ、「どのような行為をした時に減給処分対象となるのか」についても規定され、従業員全員に周知されていること
減給処分は、戒告・譴責、出勤停止、降格などと並ぶ、「懲戒処分」の一種である。そしてこれらの懲戒処分を行うためには、就業規則に規定が明記されるとともに、減給の対象となる処分理由(無断欠勤を繰り返す、社内機密を漏えいする……など)も規定されていることが必要になる。それらが明示され、従業員に周知されて初めて、減給処分が可能になるのだ。
(2)減給額は、法律で定められた限度額の範囲内であること
減給処分は従業員の生活にも直接的な影響を及ぼすため、いくら就業規則で定めたからといって無制限に行うことはできない。その限度は、労働基準法で規定されている。
労働基準法第91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
条文だけを見るとややこしいが、例えば日給1万円で月に20日間働く人の場合、1回の処分で減給できる金額の上限は日給の半額となる5000円までとなり、複数の違反を犯して何度か減給処分が下ったとしても、1カ月間で減給できる上限は月給の10分の1となる2万円まで、ということだ。この上限を超えた減給は違法ということになる。
(3) 懲戒対象となる行為と、減給額とのバランスがとれていること
前項において「減給は無制限に行うことはできない」と説明し、限度額も示したが、問題となる行為に対して、減給額が大きすぎる場合は、その処分は違法として無効になる可能性が高い。
例えば「部下に対するパワハラが発覚したことに対する処分として月給の10分の1を減給」であれば妥当だが、「遅刻1分あたり500円の減給」とか、「SNSで会社のグチを投稿したら1000円の減給」といった規定は、仮に労基法91条で定められた限度額の範囲内であったとしても、行為に対してあまりにも減給額が重すぎるため、社会通念上相当ではないとの判断で、違法となる可能性が高いだろう。
これらの要件を満たして、初めて減給処分制度は合法になる。お勤め先に怪しいところがある場合は、この機会によくよくご確認いただければ幸いだ。
【注】減給が違法にならないケースも存在する。遅刻や欠勤などで実際に働かない時間が発生した場合、その分の給料を支払わないことは違法ではない。これを「ノーワーク・ノーペイの原則」という。例えば、5分遅刻した分を給料から差し引かれる場合、東京都の最低賃金は10月1日より1113円となったので、1分あたり18.55円×5分で92.75円分はカットされても問題ないということだ。
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