「値上げ=客離れ」はどうなった? ココイチの業績が好調なワケ:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
「1000円を超えるなんて、高い」「高級路線にかじを切ったのか」――。数年前からカレーチェーン「ココイチ」が、SNSで叩かれている。しかし、直近の決算を見ると、好調の数字が並ぶ。なぜギャップが生まれているのかというと……。
「安いニッポン」の本当の元凶
これは本来、諸外国のように「平等性のあるボトムアップ」でなければいけない。つまり、政府が主導した最低賃金の継続的な引き上げだ。しかし、残念ながら日本では自民党政権が、最低賃金の引き上げをしたくない中小企業経営者を「票田」としているので、こういう政策は難しい。
政府があてにならないときは「国民のがんばり」しかない、というのは日本のいつものお約束だ。「ほしがりません勝つまでは」と苦しみながら根性で賃上げをしていくしかない。つまり、異常に安い外食、異常に安いサービスを「適正な価格」にしていくことで、これまで「安さ」を支えるために犠牲になってきた低賃金労働者の賃金を少しずつ上げていくのだ。
「高い」「1000円の価値がない」とディスられるココイチだが、バイト市場では「時給が高い」ことで知られている。21年の「Yahoo!知恵袋」にもこんな書き込みがある。
『CoCo壱の時給ってなぜ高いんですか? 兵庫ですが1000円でした。最低賃金の低い沖縄でも最低賃金を裕に超えてるところばかりで驚きました』
このように労働者の待遇を上げていくにはどうしても継続的な値上げが必要になってくることを、多くの消費者が気付き始めている。それが値上げ企業にかつてほど「深刻な客離れ」が起きなくなっている理由のひとつではないのか。
もちろん、値上げを受け入れるかどうかは個人の自由だ。価格と中身が見合わないと思うなら、その店に二度と行かなければいい。ただ、安いニッポンがこれだけ問題になっている中で、ネットやSNSで値上げを叩いても不毛なだけだ。
「高級化して終わったな」「もう二度と行きません」など、とにかく値上げ企業を叩いて、自分の経済水準に引きずり下ろそうとするのは見ていて気分のいいものではない。経済的にそこまで手が届かないならば、放っておくか、より多くの収入を得られるように努力すべきだ。
「高級」をとにかく自分の給与レベルにまで引きずり下ろそうという「庶民の傲慢さ」が、安いニッポンの本当の元凶のような気がしてならない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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