ソニー・ミュージックからゲームパブリッシャーへ転身 創業社長に聞く業界の課題:マネジャーが不可欠(1/2 ページ)
少数精鋭のクリエイターが開発を分担し、低予算・短期間で作り上げる「インディーゲーム」。ソニー・ミュージックからゲームパブリッシャーへ転身した創業社長に業界の課題を聞いた。
かつて音楽業界に遍在したインディーズレーベル。大手レコード会社の傘下に入らず、独立したレーベルを指すものだった。今ではゲーム業界にも「インディーゲーム」が存在している。ゲームの場合、少数精鋭のクリエイターが開発を分担し、低予算・短期間で作り上げることが少なくない。
その歴史自体はPC黎明期からあるものの、近年は開発環境の整備により、個人でも企業に匹敵する開発が可能になってきている。
こうしたインディーゲーム業界に、「音楽」「ゲーム」両方の業界を経験した経営者がいる。Phoenixx(フィーニックス、東京都千代田区)社長の坂本和則さんだ。坂本さんはソニー・ミュージックエンタテインメントに入社後、プレイステーションで有名なソニー・コンピュータエンタテインメントに出向。音楽とゲームの両方を経験した。
その後、インディーゲームの可能性に魅せられ2019年に独立。フィーニックスはゲーム制作・配信の他、インディーゲームの商品化、ゲームクリエイターのマネジメント事業などを手掛ける。アーティストHYDEのソロ活動20周年を記念し、21年に『HYDE RUN』をリリースした。
22年にはバンダイナムコエンターテインメントによるスタートアップ投資ファンド「Bandai Namco Entertainment 021 Fund(バンダイナムコエンターテインメント ゼロトゥワン ファンド)」の投資対象に選ばれている。
なぜ、音楽業界からインディーゲーム業界へと転身したのか。坂本社長に聞いた。
坂本和則 2000年にソニー・ミュージックエンタテインメントに入社し、楽曲プロモーションから制作(A&R)まで多岐にわたる業務を担当。ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に出向し、ゲーム・音楽を中心としたソニーグループ内を横断し新規IPを生み出す「キッズの星」プロジェクトなどを立ち上げた後、SMEにて新規事業(インディーゲームパブリッシャー“UNTIES”)の設立・運営を経験、グローバルなビジネスを展開後、独立しPhoenixxを設立。現在に至る
クリエイター集団を「バンド」と見立てた インディーゲームの可能性は?
――坂本社長はどんなキャリアを歩んできましたか?
00年にソニー・ミュージックエンタテインメントに入社し、いわゆる「アー担」と呼ばれるアーティスト担当をしていました。その時に、L’Arc-en-Ciel(ラルク)を受け持っていたんです。僕が出向する06年までそのポジションにいて、この時HYDEさんとも出会いました。ラルクのラジオにも何度も出演して、かわいがっていただきましたね。
――『HYDE RUN』のつながりはまさにファーストキャリアにあったわけですね。06年に出向とのことですが、ソニーグループの別の企業でしょうか。
それが、全く異業種の伊勢丹(現・三越伊勢丹)でした。めちゃくちゃ面白かったですね。最初はそれこそスーツなんか着たことがなかったので、まずはスーツを買うところから始めました。
当時の伊勢丹は最高益を出し続けて勢いがあり、ファッションブランドにも力を入れていた時期だったんですね。ファッションや絵画などのイベントを担当し、すごく楽しかったです。
――その後ソニー・ミュージックに復帰してからはどうしていたのでしょうか。
戻ってからはミュージックレーベルで、しばらくディレクターを担当していました。そしてプレイステーション4がまもなくローンチする頃、12年にソニーが「Music Unlimited」というサブスクリプション型の音楽配信サービスを始めます。この事業を運営していたのが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント。以下SCE)でした。ここに音楽業界独特のマナーを知っている人間として僕が出向したんです。
――ここが坂本社長とゲーム業界との出会いだったわけですね。
結局「Music Unlimited」は15年に終了してしまいます。もともと「Music Unlimited」は、プレイステーションで聴ける音楽サブスク配信サービスという位置付けもあったのですが、その後プレイステーションは世界的な音楽配信サービスの「Spotify」と組むことになります。
それで音楽配信事業からは手を引いたのですが、その後、僕はプレイステーションに独自のIP(知的財産)を発掘して立ち上げる事業に移りました。
――確かにそう言われると、ソニーはプラットフォームは多数ありますが、パッと出てくるIPがないですよね。
そこで実は、ソニーグループにいる約10万人の社員から新規IPを募ったんですね。この10万人の社員の中にはもともとクリエイター志望だった人もいます。そういった眠っている才能を見つけましょうというところから始めたわけです。それで出てきたIPを、アニプレックスがアニメ化し、ソニー・ピクチャーズがそのアニメを配信し、ソニー・ミュージックが音楽を作り、そしてSCEがゲームにするといったように、グループでクロスメディア展開をしようとしていたプロジェクトがあったんですね。
――ソニーグループは横の連携がうまく取れていないといわれることも珍しくないだけに、夢のような企画ですね。
実はそういうことをやろうとしていたんです。子どもに人気の出るようなIPをソニーグループで展開しようとすると、少し壁があって。当時ソニーではプレイステーション4を展開していたのですが、これは明らかに子どもをターゲットにしたものではありませんでした。どちらかといえば日本よりも米国の市場を意識していましたし、大人向けの作品を多く展開しているゲーム機でした。
同プロジェクトからできた作品は子ども向けのもので、IPを最終的にゲームに持っていく時、プレイステーションだけではなく他のプラットフォームでも展開すべきだと考えました。
ただ結局ゲーム展開はプレイステーションではなくスマホゲームとして出したのですが、当時はまだ「スマホは親のもの」という時代で、あまりうまくいきませんでしたね。最後までそのプロジェクトが終わらないタイミングで、僕はソニー・ミュージックに戻ることになります。
――しかしオールソニーのIPを運用した経験が、坂本社長とゲームの本格的な出会いとなったわけですね。
ソニー・ミュージックに戻ってからも、ゲームを学びたいと思いました。それで毎年、京都で開催しているインディーゲームの祭典「BitSummit」に行ったら、大学生や専門学生の若者が3〜4人でゲームを出しているんですよ。
僕もインディーゲームが好きなので、出展している人たちに「何を作ったの?」と聞いてみると「プログラマ」「グラフィック」「音楽」といったように、それぞれ役割がバラバラだったんですね。それを聞いた時に「これはもうバンドだ」と思いました。そしてゲームというグローバルなマーケットで勝負できるものを作れる才能に、なぜマネジャーがいないんだろうと思ったんですね。
――ゲームクリエイター集団を「バンド」と見立て、マネジャー不在をすぐさま見抜く辺りに、音楽業界での経験が生きているといえそうです。
同じインディーズでも音楽の場合は、例えば下北沢のロックバンドでも友達がマネジャーをやっていたりします。でもインディーゲームの場合は、どういうわけかいないことが多いんですね。すぐさまこれはマネジメントすべきと確信しました。天才である彼らをマネジメントして、彼らが作ったゲームを「速やか」にプレイステーションなど家庭用ゲーム機で出してあげる。こういった存在が必要だろうと思ったわけです。
――その考えが、フィーニックスというゲーム会社の起業にもつながるわけですね。
独立したのはその先の話なのですが、ここからまず社内ベンチャーを立ち上げようと思いました。このゲームクリエイターたちをプレイステーションでデビューさせようと動きました。プレイステーションなら海外市場にも強く、日本市場ではウケないゲームでも可能性の幅が広がります。デバッグや各国のローカライズもプレイステーション側がやってくれます。
でも、こうしたインディーゲームって、1作目だけで2作目に続かないことが少なくないんです。そこも何とかしなければと思いました。
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