増える「出社回帰」 コロナ前の世界に逆戻りでいいのか?:「総務」から会社を変える(2/2 ページ)
コロナ禍による自粛ムードも落ち着き、会社員の出社率が高まっている。リモートワークを取りやめ、原則出社に舵を切った企業も散見される。確かにハイブリッドワークは複雑な働き方で、コミュニケーション不足や業務の不透明化などの課題を生みやすい。しかし、このままコロナ前の世界に戻ってもいいのだろうか……?
ハイブリッドワークがもたらす「4つの効能」
一方で考えたいのは、ハイブリッドワークがもたらしてくれる効能である。
まず考えたいのは、働く場の選択肢が増え、さまざまな境遇の人を採用できるようになった点だ。介護、育児、あるいは副業人材含め、フル出社では働けないメンバーでも、採用してメンバーに迎えられる。
人口減少が最大の経営課題である日本においては、単一属性の社員のみで構成することが難しくなってきている。あるいは、採用で賄えないスキルも、ハイブリッドワークのみならず、雇用体系の多様化により確保できる。
また、ハイブリッドワーク時の働く場の選択、さらには、オフィス内でのABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)により、働くスペースの選択が迫られるようになった。選択することは、自律性の向上につながる。これから行う仕事はどこで行うと最も成果が上がるか、自らの仕事を見つめ、自ら場所を、スペースを選択する。それが常態化されれば、自律性の向上も考えられる。毎日同じ場所に出社し、同じ場所で働くのとは大きな違いを生み出すはずだ。
オンライン会議に慣れることで、コミュニケーションスタイルも進化するのではないだろうか? 皆さんも感じているように、オンライン会議では、阿吽(あうん)の呼吸が成立しない。言うべきことは言う、自己主張をしっかりとしないと伝わらない。また、発言しないと、全くと言っていいほど存在感が消えてしまう。「出る杭は打たれる」日本文化の中で、グローバル化に対処するのは厳しい。自らの主張を明確にし、しっかりと伝わるコミュニケーション能力の向上にも役立つだろう。
最後に、先述したが離れて仕事をすることで、ITツールを活用しなければならない状態となる。いまはやりのDXも、テクノロジーツールの活用による改革である。リアルで対処するのではなく、デジタルデータに置き換え仕事をしていく。デジタルツールの活用により、ログが残り、データとして活用できる。
データ・ドリブンでの仕事のほうが、定量化できるし、PDCAも回しやすい。何より効率的になり、その分、本来やるべき、やりたい創造的な仕事ができるはずである。離れて仕事をしなければならない必然性がないと、テクノロジーツールを入れる切迫感が生まれない。業務効率化やDXを推進する上では、ハイブリッドワークがベースのほうが効果がある。
課題を逆手にとって、ハイブリッドワークすべし
確かに先のアンケート結果のように、ハイブリッドワークに、さまざまな不満や課題もある。しかし、しかし、ハイブリッドワークでしか生み出されない効果もあるはずである。
そして、その効果、メリットは、これからの時代に特に必要なものとなる気がする。ハイブリッドワークの課題には、さまざまな工夫で対処できる。原則出社、原則フルリモートではなく、どちらも選択できるハイブリッドワークの可能性に改めて目を向け、定着させていくことが必要ではないだろうか。
著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)
株式会社月刊総務 代表取締役社長、戦略総務研究所 所長
早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルート、株式会社魚力で総務課長などを経験。現在、日本で唯一の管理部門向け専門誌『月刊総務』を発行している株式会社月刊総務の代表取締役社長、戦略総務研究所 所長。一般社団法人ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアムの副代表理事や、All Aboutの「総務人事、社内コミュニケーション・ガイド」も務める。
著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務』
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