日本のリテールメディアが攻めあぐねる、3つの理由:がっかりしないDX 小売業の新時代(2/4 ページ)
近年、日本でも小売業者やメーカーが注目する「リテールメディア」。成功する米小売り大手のモデルを模倣するだけでは、成功は難しいと筆者は指摘する。なぜ模倣だけではリテールメディアは成功しないのか――。
見向きもされないデジタルサイネージ
よくある誤解ですが、アマゾンが運営するスーパーマーケットやコンビニエンスストア、ウォルマートのスーパーセンターで、広告費目当てのデジタルサイネージはほとんどありません。22〜23年で筆者はアマゾン経営の20店舗以上、ウォルマートを6店舗見ましたが、デジタルサイネージ広告を大々的にやっていたのは1店舗だけ。なお、デジタルサイネージ広告を注視する来店客は見ませんでした。一方、会員制度やストアカードなど自社サービスの紹介を行うデジタルサイネージは各店舗で散見されます。
次の写真は22年、ほぼ全てのレジをセルフレジに改装したばかりのウォルマート店舗「East Brunswick Supercenter」の入り口付近に設置されたデジタルサイネージです。売り場表示とアプリダウンロードの促進を行っています。広告サイネージは化粧品棚に並べたブランド商品の紹介をするもの1台だけでした。これは日本でもよくある、棚確保のためにメーカー広告費で設置するものです。
Retail Mediaは、あくまでもWebサイトのパワーが強くなったことにより、広告費が多く集まるようになったという関係がメインです。セルフレジの利用率が高くなったため、今後はセルフレジの操作性を損なわない範囲でセルフレジ画面内に広告を増やす可能性はありますが、現時点ではECサイトとアプリが主な広告媒体です。
なお、セルフレジで広告を展開する場合については、広告の見せ方や配信内容を考慮するだけでなく、レジの「使いやすさ」にも配慮し、数秒の組み合わせを意識することがポイントだと考えます。
例えば、1人あたり2秒レジの時間を短縮できると、客数が2000人の店なら4000秒、1時間以上は短縮できることになります。これは単純計算であり、レジ稼働台数が最適ならここまでの数値効果は出ませんが、セルフレジの使い勝手がレジ回転率に影響する説明変数になることは間違いありません。
もしその店が駐車場の混雑がボトルネックになっているとしたら、レジの待ち時間を多少なりとも短縮できれば駐車場の回転率がよくなり、客数も増えて売り上げアップにつながります。広告費の獲得という部分最適ではなく、店舗全体最適での視点が欠かせません。
それでは、次章から日本でリテールメディアがうまくいかない原因を見ていきましょう。
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