日本のリテールメディアが攻めあぐねる、3つの理由:がっかりしないDX 小売業の新時代(3/4 ページ)
近年、日本でも小売業者やメーカーが注目する「リテールメディア」。成功する米小売り大手のモデルを模倣するだけでは、成功は難しいと筆者は指摘する。なぜ模倣だけではリテールメディアは成功しないのか――。
日本で成功しない理由(1)ECサイトの売上高が小さい
日本で言われている「リテールメディア」がうまくいかない原因の一つが、ECサイトの売上高が大きくないということです。
米国のEC売上高1位はアマゾン、2位はウォルマートです。ウォルマートUSのEC売上高はアマゾンジャパンの売上高と同等の年商3兆円超です。
日本人が日本で体験できる最も大きなRetail Mediaはアマゾンジャパンのサイトとアプリです。同様の取り組みはZOZOや楽天市場などのECプラットフォームで行われています。
実店舗が中心の小売企業による自社サイト&アプリで、EC売上高が大きいのは、日本で22年度EC売上高2位(約2100億円)のヨドバシカメラです。ヨドバシカメラのECサイトで検索すると、検索結果最上段に「プロモーション」表記がされます。
広告を配信する仕組みへのコストは一過性のものだとしても、広告を獲得する活動には手間を含めた資金がかかります。ヨドバシ.comのような規模になれば収益性が期待できますが、サイト経由の売上高が小さいうちは収益が期待ほど上がらないということになります。
日本で成功しない理由(2)メーカーが広告費を出したい商品と小売が売りたい商品が一致しない
日本ではEC売上高比率が低いからこそ、実店舗のメディア化に可能性があるという視点には筆者も一理あると考えます。
情報メディアとは、人間の情報伝達、コミュニケーションを媒介するもの(図書館情報学用語辞典)です。 「3Vの法則」というものがあります。話し手が聞き手に与える影響は、言語(Verbal)情報7%、聴覚(Vocal)情報38%、視覚(Visual)情報55%――の割合だというものです。
小売店舗内で最も多いメディアは紙のPOP(Point of purchase advertising:販売時点広告)です。POPで伝えられるのは限られたスペースに記載できる言語情報のみです。これを動画にした場合、画面が切り替わることで、より多くの言語情報を表示することができ、より大きな影響力のある視覚・聴覚情報と組み合わせて表現できます。
では、紙からデジタルサイネージにPOPはどんどん変わっているかというと、残念ながら現実はそう簡単ではありません。
小売業およびITベンダーの複数企業との関わりで経験しましたが、商品部や販促部といった本部主導で店頭サイネージを設置する場合、店舗から次のような苦情が入ります。ドラッグストアを例にしましょう。
「今期、わが社ではP製薬の風邪薬PBを推奨することになっていて、店長は店員に指導し一丸となって頑張っている。そこに1日中テレビCMの入るS製薬NBを大画面で流すのは勘弁してくれ」
本部に言ってくるのはまだマシなケースであり、誰かが勝手に電源スイッチを抜いていることもあります。1日数十品目が短時間ずつ流れるようなメディアであれば、働いていても気にしませんが、広告の量が少なく、同じ商品が繰り返し放送されるのを最も目にするのは、来店客ではなく、店で働く従業員なのです。いろいろな画面でさまざまな商品がサイト訪問者に合わせて表示されるWebのRetail Mediaとは状況が異なるのです。
なお、デジタルサイネージの情報メディアの特徴は「強制視認性」にあります。ふいに目に飛び込んでくるメディアであり、さまざまな店舗で活用されそうなものですが、意外と小売店への設置が伸びないのは、メーカー視点の商品広告だけのメディアにとどまっているということがあります。
店舗で誰も振り返らないデジタルサイネージはテレビCMを流用して、長い期間同じコンテンツが流れ続ける(そして誰も見ない)というような、設置目的が広告収入だけになってしまっているものです。
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