横浜にオープン「レジなし店舗」の勝算は? 米では相次ぎ閉鎖も(3/3 ページ)
米アマゾンの「アマゾンゴー」が近年、相次いで閉鎖している。レジなしで時短や省人化などの恩恵が期待されたが、思いがけない落とし穴が潜んでいると筆者は指摘する。
「レジ待ち解消」がもたらす“不都合”とは?
実はレジなしアマゾンゴーがオープンした際、どこも同じような光景が広がっていました。あまりに進んだ店舗のため、アマゾンにとっても想定外のことが起きていたのです。
アマゾンゴーのバイスプレジデント、ジアンナ・プエリーニ氏は以前「最初か二度目の来店時に出口で『本当に商品を持って出ていってもいいの?』と聞く人がどれほど多いかまで予想していませんでした」と明らかにしたことがありました。現在もアマゾンゴーでは、システムを説明するスタッフを出入り口に配置しています。
レジなし店舗が最初に広まった米国で、このような状況なのです。したがって、横浜にオープンしたレジのないウォークスルー型店舗「キャッチ&ゴー」も、人手不足解消とはならないと思われます。ましてやスマートフォンに専用のアプリをダウンロードして事前に登録した後に入店するというハードルの高さもあり、想定ほど客数が伸びないのではないかと推測できるのです。
先日のニューヨーク出張では、ニューアーク・リバティー国際空港で20年にオープンしたジャスト・ウォークアウトのレジなし店「CIBOエクスプレス」がすでに撤退していることを確認しました。通常のCIBOエクスプレスはありますが、ジャスト・ウォークアウト仕様の売店がすでにないのです。複数のCIBOエクスプレスのスタッフに聞いても「レジなし店舗なんて知らない」と口をそろえます。そもそもジャスト・ウォークアウトさえ分かっていないのです。
レジを通さない革新的な買い方には、どうしても説明に人員が必要となります。ましてや店にとっては一見客ばかりが往来する空港ターミナル内ですから、通常店よりレジなし店の人件費は大幅にかかっているとみていいでしょう。だからニューアーク・リバティー国際空港からジャスト・ウォークアウトの売店は撤退したのではないでしょうか。
たとえ、人々がレジなし店に慣れたとしても、さらなる問題も浮上してきます。それは欠品です。
筆者がかつて開いたセミナーの参加者は、アマゾンゴーでの買い物を最短4秒で終わらせることができました。スマホをスキャンして商品を手にとってゲートを出るまでの時間です。一方で、素早い買い物は人気商品から瞬時になくなっていくというリスクをはらみます。レジ待ちというボトルネックがない分、数秒で買い物が終われば、逆に商品補充が追いつかない可能性がでてきます。
横浜の「キャッチ&ゴー」もこうした課題を解消できるかどうかが、成功のカギを握りそうです。いずれにしても、不特定多数が利用するスーパーに併設される店舗としては国内初となる「キャッチ&ゴー」は歓迎したいところです。結果はどうであれ、個人的には消費者の購買変容を促す、こういったDXチャレンジは応援しています。
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