総合職も「仕事によって給与を変える」べき? 誤解だらけの「職務給」3つのタイプ(2/2 ページ)
務内容を給与にひも付ける「職務給」への関心が高まっており、導入を検討する企業が増えています。しかし、メディアで極端な事例ばかりが取り上げられがちなせいか、人事部や経営者にも日本における職務給導入企業の実態があまり正確に伝わっていません。例えば「ジョブ型を導入すると解雇しやすくなる/されやすくなる」と思っていませんか? また「職種や担当業務が変わると給料が変わる/職種や担当業務が変わらないと給料が変わらない」と思っていませんか?
パーソル総合研究所は日本企業の職務給の制度と運用実態の把握を目的に、職務給導入企業に対するヒアリング調査を行いました。国内の職務給導入企業には、大きく分けて3つのタイプがあります。「グローバル志向型」「組織長厚遇型」「フレキシブル型」の3タイプです。
(1)グローバル志向型
グローバル環境への適合を強く意識する企業です。管理職層だけでなく、一般社員層を含めて全社員に職務給を適用します。個別ポジションの職務記述書(ジョブディスクリプション)を作成して職務評価を行った上で職務等級を決める点が特徴です。
人事分野にある程度詳しいと「職務給を導入する企業は必ずそうするのでは?」と思われるかもしれませんが、実態は違います。職務記述書の作成とメンテナンスはかなり手間がかかるプロセスであるため、グローバル志向型以外の企業では職務記述書を作成しないことが珍しくありません。また、会社の命令による異動(社命異動)はほとんど行わず、異動配置は社内公募中心です。
(2)組織長厚遇型
管理職層を主な対象として職務給を導入し、組織長と非組織長の職責差に応じた処遇差を明確にすることに優先順位を置く企業です。職務記述書はほとんど作成せず「本部長 > 部長 > 課長」といった役職位序列を基に職務等級を決める点が特徴です。管理職層は組織長のみとする企業も散見されます。
組織長以外では、IT系など採用需給がタイトな特定職種への対応を主眼とします。一般社員層については職務給を導入せず、職能給を温存する企業も多くみられます。異動配置は社内公募を活用しつつも、社命異動を重視しています。
(3)フレキシブル型
基本給全体を職務給にしようということではなく、職務給と職能給のハイブリッド型や、仕事を大くくりで定義する役割給などを採用し、柔軟に職務給的要素を取り入れようとする企業です。これまでの職能的な人材マネジメントの利点を温存した上で給与の職務要素を高めようとしているため、担当職務だけで等級が決まるわけではない点が特徴です。異動配置は組織長厚遇型と同じく、社内公募を活用しつつも、社命異動を重視しています。管理職と専門職との双方向配置も柔軟に行う傾向があります。
実態として職務給導入企業には以上の3つのタイプがありますが、(1)グローバル志向型の企業から見ると、組織長厚遇型やフレキシブル型の企業は「ホンモノの職務給ではない」というように見えているのではないでしょうか。
ただ、グローバル志向型の企業にしても、一般社員層の職務給は職種が変わっても給与が変わらないものがほとんどです。また、組織長厚遇型の企業は、明確に自社は「職務給を導入している」と位置付けています。フレキシブル型の企業も自社は「職務給要素を取り入れている」と考えています。つまり、職務給導入企業にもいろいろあるということです。
これら3つのタイプの中ではグローバル志向型が最も典型的な職務給に見えますが、フレキシブル型企業が組織長厚遇型へ、組織長厚遇型の企業がグローバル志向型へと移行していくことを目指しているのかというと、そういうことではなさそうです。
「仕事に応じて給与を決めたい」という点は各タイプとも共通していますが、それぞれのタイプが思い描く人材マネジメントの「あるべき姿」は異なっています。「(3)→(2)→(1)の順で職務給体系が進化していく」というわけではなく、それぞれのタイプは併存・並列的なのです。
企業が職務給を導入しようとするときには、まずは上記の3つのタイプがあることを押さえておきましょう。次回の記事では管理職、専門職、一般社員それぞれの等級や給与の決め方などを説明していきます。
著者プロフィール
藤井薫
パーソル総合研究所 上席主任研究員
電機メーカーにて人事・経営企画スタッフ、金融系総合研究所にて人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム開発ベンダーにて事業統括を担当。2017年8月パーソル総合研究所に入社し、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。著書に『人事ガチャの秘密』(中公新書ラクレ)。
株式会社パーソル総合研究所
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行う。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。http://rc.persol-group.co.jp/
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