テスラが直面する「分岐点」 自動車ビジネスの普遍的構造から読み解く:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/8 ページ)
米テスラは今、大きな分岐点に差し掛かっている。すでにメディアにもさまざまな悲観論があがり始めているが、それらはテスラの現状の表層をなぞっただけで、全く本質に届いていない。
少量生産車のビジネス構造 スーパーセブンを例に
自動車を作る、特に量産車を作ることは、そもそも大型の生産設備に巨額投資をするビジネスだ。同じクルマを作るビジネスでも少量生産車と大量生産車ではビジネスのジャンルが異なる。
例えばスーパーセブンのメーカーとして知られるケーターハムのような少量生産メーカーは、極めてありふれた設備でクルマを作る。今は知らないが、かつてのケーターハムは、レーシングカーのフレームビルダーとして知られるアーチモータースに外注してフレームを作っていた。アーチモータースでは、職人が鉄パイプをジグに据えて、真鍮ロウ付してフレームを作る。完全な職人技で、なかなか真似できないものとされていたが、途中からありふれたMIG溶接に切り替わっている。
こうして出来上がったフレームは、古くはサリー州ケーターハム・オン・ザ・ヒルの組み立て工場に運ばれて、現在でいうセル方式で車両が組み立てられていた。フォードが100年以上前に開発したベルトコンベア方式以前のやり方で、1台のクルマを完成までひとりで組み上げていく。嵐で工場が倒壊し、ケント州のダートフォードに少し規模の大きい工場が作られてからも、その手順は変わっていない。25年ほど前、筆者はこのダートフォード工場に数回足を運んで、実際の組み立ての様子を取材している。
部品が新品であることを除けば、ほぼ設備も手順も修理工場のようなもので、ビジネスとして見れば設備投資が小さいことが特徴だ。これを量産メーカーのような流れ作業のラインにしても、そもそもスーパーセブンの販売台数からいってペイしない。
ケーターハムの生産台数は年間でせいぜい500台。月に20日稼働なら日産2台かそこらだ。組み立てのセルは通路を挟んで両側に5つくらいあり、いくつかは修理やレストア用だったので、組み立ての同時仕掛かりは6台くらい。したがってたぶん1台の生産には3日くらいを要する計算になる。
そういう生産数で大型の高効率設備を導入しても、その能力を発揮するだけの需要がない。高効率の機械は汎用よりも高い。誰もが使うものと比べて、限られた人だけが使うものは当然高くなる上、効率向上のためたいていは仕組みが複雑になるのだから当然といえば当然だ。
例えていえば、一人暮らしの人が定価30万円超えの業務用スライサーを買っても意味がないのと同じだ。3.6キロのきゅうりを10分で正確に3ミリ厚にスライスする能力がいかにすごくても、個人宅では使い道がない。だから包丁の方がコスト効率が良い。包丁なら数千円か、一流品を買っても2万円くらいのものだ。
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