テスラが直面する「分岐点」 自動車ビジネスの普遍的構造から読み解く:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/8 ページ)
米テスラは今、大きな分岐点に差し掛かっている。すでにメディアにもさまざまな悲観論があがり始めているが、それらはテスラの現状の表層をなぞっただけで、全く本質に届いていない。
大量生産車のビジネス構造 ポルシェを例に
ただし、これが年産20万台あたりのラインに達すると話が変わってくる。職人が手作業で作っていては生産効率が上がらない。そこまでいくと人件費の方が高くなる。だから生産ラインを作って流れ作業にし、1工程あたりの作業時間を短くするのだ。逆にいえば業務用スライサーを導入したら、10分あたり3.6キロのきゅうりを料理に仕上げて売りさばかなければならない。同じスライサーを同業他社も導入すると考えれば、その投資が減価償却に及ぼす影響は稼働率に依存するからだ。
ここで20万台という数字を分岐点に挙げたのは、一般的な自動車生産工場の年間生産台数は20万〜25万台だからだ。過去の実績ベースで見ていくと、工場の規模は基本が25万台、大型で50万台あたり。テスラはギガファクトリーという触れ込みで50万台と100万台の工場を作って話題になった。
当然、20万台と50万台、100万台の工場では、それらをフル稼働させるための前提販売台数が変わってくる。大規模工場にすればするほど、より高効率の生産設備を導入するメリットがある。数が売れるならもっとすごいスライサーを新たに設計して単品オーダーしてもフル稼働させられる道理だ。
さて、ちょっと余談を挟もう。手作りでクルマを作るなら――それはケーターハムのような工場をシステムそのままに規模拡大していったとしたらという意味だ――おそらく10倍から、多く見ても20倍くらいが限界なのではないか。つまり年産5000台から1万台というあたりだ。
ちなみに2021年のフェラーリの年間生産台数は1万台強だが、過去を見れば、1960年代のヒット作は1モデルを数年掛りで1000台ほど、ちょうどケーターハムと似たような規模だった。その後はじわじわと増えるものの、90年の年間生産台数を見てもまだ5000台を超えていない。鋼管フレームからモノコック構造に変わった89年の348GTBから、少しずつ量産のノウハウを導入し始め、ようやく1万台をクリアしたところだ。ちなみにランボルギーニは2021年実績で約8400台である。
世界中のスポーツカーメーカーの中で、1社だけ飛び抜けているのがポルシェで約31万台である。ポルシェだけビジネスのスケールが違うのだ。
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