テスラが直面する「分岐点」 自動車ビジネスの普遍的構造から読み解く:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/8 ページ)
米テスラは今、大きな分岐点に差し掛かっている。すでにメディアにもさまざまな悲観論があがり始めているが、それらはテスラの現状の表層をなぞっただけで、全く本質に届いていない。
フェラーリはエンジンなどを他社に提供している例外を除いて、車両そのものは全てが自社専用だが、ランボルギーニにはフォルクスワーゲングループの兄弟車が存在し、量産メソッドで作ったクルマが台数に含まれる。ところが、ポルシェに至っては量産車の方が多い。
ものすごくざっくりいえば、リヤエンジンレイアウトのポルシェ専用モデルを除けば、フォルクスワーゲンのMLBプラットフォームが量産メソッドだということになる。だからといって中身が全く同じということではないが、少々乱暴な表現を承知で、生産の効率化の面から見ればそういう図である。ポルシェは約8割を占める主力販売車種はグループ内調達の完全な量産モデルなのだ。
それだとあまりに味気ないのでもう少し詳細に見てみよう。22年1月にポルシェが出したリリースによれば、アウディQ5の兄弟車であるマカンが約8万8000台、フォルクスワーゲン・トゥアレグとアウディQ7の兄弟車であるカイエンが約8万3000台、カイエンのバリエーションであるパナメーラが約3万台。アウディRS e-tronとシャシーを共用するタイカンが約4万1000台だ。
対して、ポルシェ専用モデルの911とボクスター/ケイマンは前者が約3万8000台、後者が合わせて2万台だ。
まさかこれらの会社がケーターハムのようなプリミティブな生産ラインを使っているわけはない。つまりいろいろな手法を駆使して、量産メソッドを入れて省力化しつつ、量産機械をフル稼働で使いきれない非効率分はプレミア価格で吸収する手法を取っていると考えられる。その分クルマの能力や味も底上げして、ちゃんとフェラーリやランボルギーニやポルシェの味にしてある。
仮説だとあらかじめ断っておくが、1万台までは手作りの方がトータルコストが安く、量産効果を得るには20万台が必要。その間には死の谷があり一気にジャンプアップしなくてはならない。そこを救う方法があるとすればプレミア価格でコスト増を飲み込む方法なのだが、そのためにはその価格を容認してもらえるだけのブランド力が必要だと筆者は思っている。
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