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テスラが直面する「分岐点」 自動車ビジネスの普遍的構造から読み解く池田直渡「週刊モータージャーナル」(8/8 ページ)

米テスラは今、大きな分岐点に差し掛かっている。すでにメディアにもさまざまな悲観論があがり始めているが、それらはテスラの現状の表層をなぞっただけで、全く本質に届いていない。

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テスラの命運がかかる普及モデル2シリーズ

 そのためには、庶民に買える300万円以下の2シリーズをリリースし、これまでオールドスタイルとバカにしてきたディーラーネットワークを構築し、わがままなモンスターカスタマーとも付き合っていくしかないのではないかと筆者は考えている。スタンダードなやり方には意味があるのだ。


テスラが4月に公開したマスタープラン パート3。開発中のコンパクトサイズカー「モデル2」にはベールがかかっている

テスラはコンパクトサイズカーの規模感を、ミドルサイズであるモデル3/モデルYの約2倍と見積もっている

 テスラはなぜか「需要>生産」をこれからも続くものと考えてしまった。しかし世界中の自動車メーカーは、オイルショックやリーマンショックなどさまざまな経済危機を経験し「需要<生産」の地獄を見て、それを乗り越えてきた。だから慎重になるのである。テスラは少々勝負を大きく掛けすぎた。冷静に見れば今のテスラは年産130万台のメーカーであり、同じ規模のマツダの投資の慎重さから考えると暴挙に見える。

 例えば1000万台メーカーのトヨタの来し方を振り返って見るといい。2000年頃、トヨタはまだ600万台に満たない規模だった。ところがそこから躍進が続く。毎年50万台の増産は石橋を叩くトヨタをさえ狂わせた。大型の先行投資を繰り返し、生産効率を最重要課題に据えたトヨタは、リーマンショックで痛い目に遭う。09年には営業損益が4600億円の赤字となり、創業以来の赤字決算を迎えたのである。

 トヨタはそこから事業強靭化(きょうじんか)に取り組み、製品の魅力を向上させるとともに、少量生産でも利益の出る体質への転換を図った。需要減に強い会社への体質改善である。それは別の見方をすれば、ギガプレス的高速生産の問題点の是正でもある。単機能の高速設備から多機能であることを優先し、高速性の優先順位を下げた。

 今回トヨタが発表したギガキャストもまさにそういうものだ。キャストの型を自由に交換できる。1車種のシャシーしか作れないという点を嫌って交換式金型へのスイッチ効率を引き上げた。絶対的な高速性能ではギガプレスにおそらくは敵わない。しかし減産に強い。ある車種が売れなくても別の売れる車種を作れる。なにもかも全てが売れなくては打つべき手はないが、そこはそれ。販売のトヨタである。

 ちなみにトヨタは、リーマンショック当時と比べて、損益分岐台数を6割に低下させている。テスラはすでに投資してしまった部分については一方通行であり、さらに大型投資をしない限り減産に強い体制には戻れない。となれば販売台数をこの勢いで伸ばしていくしかないのだが、果たしてテスラの命運はどうなるのだろうか。

プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。


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