日本でリテールメディアの成功に不可欠な、3つのポイント:がっかりしないDX 小売業の新時代(3/4 ページ)
小売業がメディアを運営することで広告収益へとつなげていく「リテールメディア」。米国の小売企業の取り組みを真似するだけでは、成果は得られないと筆者は指摘する。リテールメディアを成功させるために押さえておくべきポイントとは――。
小売業としての“意志”は明確か?
「意思」ではなく「意志」を使っていることには意味があります。
「意思」は「考えや思いそのもの」を指すのに対し、「意志」は「考えを行動に移すか移さないか」という積極性や実行力を内在します。
前回、リテールメディアがうまくいかない3つ目の原因として「前年比発想で自社活用をやり切れない」を挙げました。
筆者はデジタルサイネージ企画・導入・運用企業のアドバイスをすることもあります。小売の意志が込められていない、既存コンテンツを安易に流用した店頭デジタルサイネージにならないためのポイントは、コンテンツの番組編成です。
その日その時間に売り場を訪れるお客にどういう商品・サービスを紹介するか、それはイメージを持ってもらうものなのか? 接客を補助するものなのか? お客の来店頻度は業態・立地で異なるので、全店舗同じ番組編成でいいのか? これらのノウハウがあるパートナー企業と連携して小売業が自分ごととして考える必要があります。
成功の鍵となるのは、生活者の「真のニーズ」を捉えることです。例えば、生活者がスーパーマーケットのWebサイトを訪れる目的は、商品の情報収集だけでなく、新しいレシピの発見や、その商品を使用した生活の提案を求めていることもあります。
このようなニーズに対応するためには、情報の提供だけでなく、その背後に存在するストーリーや商品への「こだわり」を伝えるためのコンテンツ提供が求められます。レシピは良い例です。スーパーマーケットで提供されるレシピは、生活者に対して新しい食材の使い方や調味料の活用法を提案するものであり、これが「食卓登場頻度」を高め、消費を促進するサイクルを作り出します。
しかし、レシピだけでは商品そのものの価値や特徴を伝えきれません。ここで求められるのは、商品を取り扱う背後の物語や、商品開発に携わるメーカーの「情熱」を伝えるコンテンツです。生活者は単なる商品情報よりも、その商品がどのような思いや背景を持って生まれたのか、その背後にある物語に強く共感し、購買意欲を持つことが多いのです。
顧客の購買体験を向上させるためには、広告をただのプロモーションとしてではなく、生活者との「コミュニケーションツール」として捉え、その中に商品の物語や価値を織り交ぜることが不可欠です。
「リテールメディアネットワーク」のポテンシャル
小規模事業者が多い日本の小売業界においては「リテールメディアネットワーク」の導入も必要不可欠です。米国のように、大手小売業者が市場を寡占する形ではない日本市場では、各小売業者が独自にリテールメディアを運営するよりも、複数の小売業者が手を組み、一つの大きなネットワークを形成することで、より多くの生活者にアプローチしやすくなります。
このネットワークの形成により、メーカーは効果的に広告出稿が行え、小売企業も収益力を向上できる可能性があります。大きな課題としては、前述の小売業の「意志」統一が困難であることです。店舗で売りたい商品との齟齬をなくすために、店舗運営部と商品部とのコミュニケーションが最重要の鍵になります。
また、リテールメディアネットワーク参加企業間のコミュニティ運営も成功の鍵となります。
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