日本でリテールメディアの成功に不可欠な、3つのポイント:がっかりしないDX 小売業の新時代(2/4 ページ)
小売業がメディアを運営することで広告収益へとつなげていく「リテールメディア」。米国の小売企業の取り組みを真似するだけでは、成果は得られないと筆者は指摘する。リテールメディアを成功させるために押さえておくべきポイントとは――。
リテールメディアを成功に導く3つのポイントとは?
前回、リテールメディアがうまくいかない原因の2つ目に、「メーカーが広告費を出したい商品と小売が売りたい商品が一致しない」、また、リテールメディアの取り組みを複雑にしている大きな要因として「メーカーと小売企業間の役割分担」の問題を挙げました。
簡単におさらいしましょう。リテールメディアの展開において、伝統的なメーカーと小売業者の役割分担が課題となっています。過去には、商品の配置や店舗運営を小売業者が、ブランディングやマーケティングをメーカーが主導していました。しかし、この新しいマーケティング手法導入において、双方の役割が不明確であることが連携の難しさや意思疎通の不足を引き起こしています。
メーカーの宣伝部は大きな広告予算を持ち、広告代理店と連携して広告活動を行っている一方で、マス広告にお金を投じない小売業者は、広告代理店から軽視される傾向にあります。しかし、メーカーにとって小売店は重要な販売チャネルであるため、営業部が小売業者との関係を深める役割を持ちます。この営業部は広告予算が少ないものの、商品の原価やリベートに関する交渉を行います。小売業者の中でも、店舗運営部と商品部との間に距離感が存在するのです。
ここで活用すべきなのは、従来の店頭販促では脇役だった広告代理店と小売企業との連携です。前述のGoogleによるMatsukiyo Adsの事例では、そこにも言及しています。
Matsukiyo Adsローンチ当初は社内でも手探りで進めていましたが、取り組みを進めるにつれ、社内体制も整ってきました。
営業企画部は、社内関係者と広告会社のハブとなり、各案件の全体統括とプロセスの設計を担っています。社内関係者向けの案件ブリーフシートを作成し、商品部とすり合わせを行います。マツキヨ主導のキャンペーンの場合には、クリエイティブに使用して良い表現や店頭で実現できることなども、営業企画部が決めていきます。
商品部からも、メーカーと共に育てていけるブランドを支援できるよう、会議にも最初から入り、店頭で応えられることに積極的に関わっています。また、各バイヤーもデジタルマーケティングの効果を実感してきています。
このような社内と社外をつなぐ活動は、リテールメディアの成功に不可欠です。何かしらの素晴らしいツールを入れるだけで全てが解決するような簡単な取り組みではありません。しかし、やり遂げた時の成果は売り上げだけでなく、計測できない社内外のつながりという形で得られるものなので、社内外を結びつける活動に取り組む価値は大きいでしょう。
また、メーカーにおいては、宣伝部と営業部の連携を強化しつつ、各部門の評価基準の見直しをゼロベースで行うことが鍵になるでしょう。それらの要素がうまく機能する企業は、売り場を持つ小売業とのリテールメディア連携において、他の企業より優位に立つ可能性が高まります。
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