アマゾンのアパレル特化店舗が全店閉鎖 3つの「しくじり」はこれだ:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(1/3 ページ)
アマゾンのアパレル特化型店舗「Amazon Style」は、開店から2年もたたずに全店舗を閉鎖した。なぜうまくいかなかったのか――。
連載:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線
小売業界に、デジタル・トランスフォーメーションの波が訪れている。本連載では、シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)が、米国のリテール業界の最前線の紹介を通し、時代の変化を先読みする。
以前この連載でご紹介したアマゾンのアパレル特化型店舗「Amazon Style」ですが、開店から2年もたたずに、11月9日に全店舗(カリフォルニア州ロサンゼルス店とオハイオ州コロンバス店)が閉鎖しました。
Amazon Styleでは顧客が列に並ぶ必要がないように試着の順番はアプリで管理します。試着室にはスクリーンを設置しており、一人一人に合った商品をおすすめし、客が気になる商品を選ぶと試着室に自動的に届けられるなど、顧客体験を向上させるための機能がちりばめられていました。当時注目されていたのですが、残念な結果となりました。
これで、レジなしコンビニのAmazon Go、アマゾンで4つ星以上のさまざまな商品が買えるAmazon 4-Star, アマゾンの書店であるAmazon Booksなどと並んで、アマゾンのリテール事業がもう一つ幕を閉じたことになります。
アマゾンはなぜ「しくじった」のか
広報担当のクリステン・キッシュ氏は取材に対し「慎重に検討した結果、Amazon Styleの実店舗2店舗を閉鎖し、オンラインファッションショッピング体験に注力することを決定しました。新しくエキサイティングな商品の数々をお得な価格で提供し、革新的なテクノロジーを導入することで、全てのお客さまのニーズにお応えします」と答えていることから、ファッション事業全体から手を引くのではなく、今後はオンライン上でファション部門に集中、強化していくことが分かります。
事実、アマゾンのファッション部門への積極的な参入は以前より報じられており、その成長率も期待されています。
例えばNew York Timesの記事によると、21年に金融サービス大手のコーウェンのアナリストが行った調査では、ミレニアル世代の消費者の34%がアパレルを購入する際にまずアマゾンを検索すると回答したそうです。
これを裏付けるように、Forbesの記事によると、アメリカ国内でのアマゾンの衣料品および靴の販売は20年に15%増加して410億ドル(現在のレートでおよそ約4兆3400億円)に達したことが分かっています。これはアメリカ国内で販売される全衣料品の11〜12%、オンラインで販売される全衣料品の34〜35%のシェアに相当し、ファッション部門ではアマゾンがアメリカトップのシェアを確立しています。
また、Statista(世界の主要な業界、市場調査や消費者動向に関するデータや統計を提供する世界最大級のプラットフォーム)によると、アマゾンのファッションおよびアパレル部門は、22年から27年にかけて最も急速に成長するセグメントであると予測しており、年間複合成長率(CAGR)は12.4%に達すると見込まれています。
このように、全体で見れば順調に見えるアマゾンのファッション部門ですが、なぜ実店舗であるAmazon Styleではリテール戦略がうまくいかなかったのでしょうか。あらためてその原因を考察したいと思います。
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