「部下なし管理職」の給与は、どう定めるのが適正か?(2/2 ページ)
業務内容を給与にひも付ける「職務給」。その導入状況を見ると、全社員に職務給を導入する企業と管理職層だけに導入する企業とに分かれます。そして、一般社員層だけに職務給を導入する企業はありません。どうやら企業の職務給導入目的は「管理職層をどうにかしたい」というところにありそうです。
職務給導入企業には「グローバル志向型」「組織長厚遇型」「フレキシブル型」の3つのタイプがあります。中でも「組織長厚遇型」の企業は管理職層の処遇にメスを入れたいという意図が明確ですが、組織長厚遇型の企業だけでなく「グローバル志向型」と「フレキシブル型」の企業にも同様の傾向があります。職務給導入企業に限らず、職責と貢献度に応じた給与という面で矛盾が目立っていたのが管理職層であり、その事情は多くの企業に共通しています。
職能給の企業と同じく、職務給の企業においても管理職層はマネジメント職とプロフェッショナル職を並立させる形が一般的です。しかし「組織長厚遇型」の企業には「管理職層=マネジメント職」とする例も散見されます。この場合、基本的にはこれまで管理職層として処遇されていた専門職は一般社員層に位置付けられることになります。
企業によっては図表2の右側のパターンのように、管理職層の一番下の等級を「部下なし管理職」用の等級にしていることがあります。「部下なし管理職」には、たいていポスト待機者、実質的マネジメント職、実質的プロフェッショナル職の3通りの人たちが混在します。
人事部が主管する全社横串の管理職昇格試験合格者を組織長ポジションに登用するという職能資格的運用を行う企業は、昇格先行になるのでポスト待機者が発生します。また、そのような企業は管理職層と一般社員層との間に大きな壁があり、いったん管理職層に昇格すると一般社員層に戻ることはほとんどありません。そこでポストを外れた人も「部下なし管理職」になるのです。
実質的マネジメント職とは、公式組織傘下のチームなどのリーダーです。公式の組織図では「課」が最小組織単位になっているものの、課の下に組織図には記載されていない「チーム」があって、実質的にマネジメントを行うチームリーダーが配置されているというようなパターンです。組織フラット化、大くくり化を掲げる企業で散見されます。
そして、実質的プロフェッショナル職とは、文字通り、実質的にはマネジメント系の人材ではなくプロフェッショナル系の人材(専門職)なのですが、一般社員層の処遇ではリテンション(退職防止)上のリスクが大きい人材です。管理職層にはプロフェッショナル職用の等級がないので、仕方なく「部下なし管理職」としてマネジメント職の最下位等級に位置付けています。いずれにせよ「管理職層=マネジメント職」という設定の企業では、プロフェッショナル職はマネジメント職よりも下位の等級になるということです。
一方、管理職層にプロフェッショナル職の設定がある場合も、その運用は厳格に行われる傾向です。プロフェッショナル職の認定が甘いと、管理職層の役割や責任を明らかにして、それにふさわしい給与の形にすることができなくなるためです。それでは年功化した職能給と何も変わらなくなってしまいます。
その意味では、前述した「管理職層と一般社員層との間に大きな壁がある企業」でも運用が変化してきています。それは管理職層を純粋化しようという動きです。“ホンモノ”の専門職以外はプロフェッショナル職に認定せず一般社員層に戻し、マネジメント職も組織長以外は認定せず一般社員層に戻すということです。これは、組織長ポジションを外れると、ホンモノの専門職としてプロフェッショナル職に認定されない限りは一般社員層に戻ることを指します。労働組合があれば、組合員になるということです。もちろん「どちらでもない人」は一般社員層です。
このように職務給導入企業に共通する狙いは、まずは管理職層をどうにかしたいということです。今後は、組織長ポジションがあるマネジメント職、ホンモノのプロフェッショナル職しか管理職層にとどまることはできません。
職務給は職能給よりも厳しい仕組みですが、必ずしもそればかりではありません。裏返せば、組織長ポジションにふさわしい人であれば登用される、実力がある人であればプロフェッショナル職に認定されるということでもあります。つまり、年齢や勤続年数などの属人条件はあまり関係なくなることで、若手にとってはチャンスをつかみやすくなるということでもあります。職務給導入企業は、若手の登用も大きな狙いのひとつにしています。
管理職層の中で、営業部長、人事部長などの個別ポジションをどのように格付けるのか。また、プロフェッショナル職として位置付けるられるホンモノの専門職とは何かについては、続稿で詳しく説明していきます。
著者プロフィール
藤井薫
パーソル総合研究所 上席主任研究員
電機メーカーにて人事・経営企画スタッフ、金融系総合研究所にて人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム開発ベンダーにて事業統括を担当。2017年8月パーソル総合研究所に入社し、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。著書に『人事ガチャの秘密』(中公新書ラクレ)。
株式会社パーソル総合研究所
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行う。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。http://rc.persol-group.co.jp/
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