「AIに怒られた」 カスハラ体験ツール、開発のワケ(2/2 ページ)
「ふざけんな!」「早くなんとかしろ!」――。そう声を荒げているのはAIだ。対話練習ツール「iRolePlay」は、さまざまな人格を持ったAIとの対話を通じて、会話力の向上やカスタマーハラスメント対策ができる。実際に体験し、AIに怒鳴られてみた……。
「カスハラ」「話が長い人が多い……」 コンタクトセンターの現実
関根代表は製薬会社で働いていた頃、コールセンター業務を担当する社員が教育しても辞めていくことに課題を感じていたという。
当時、薬の副作用に怒った患者や家族からの問い合わせが頻発しており、社員の負担、心労はかさんでいた。また長時間の電話対応により、その日の他の業務が成り立たなくなることも課題だった。
そこで「怒っている人」のトレーニングシステムを作れば、窓口でのかわし方もうまくなり、若手の育成や離職防止につなげられるのではないかと考えたという。
カスタマーハラスメントは、今や社会問題化している。コンタクトセンターでも、最近は各社がマニュアルを作るなど対策を強化。長時間話をやめない該当客に当たった場合は「うまく話して電話を切ってください」と促すようになったという。
「しかし本当に必要なのは、どんな時も普通の会話として成り立たせて、相手が困っていることを聞き出し、問題を解決することだ」――と、関根代表。
怒っているわけでなくても、短気な人や急いでいる人に的確に話をして、相手がイライラしないよう導くことは、コンタクトセンターに限らず、営業や受付などの接客業務でも必要な技術だ。
加えて関根代表は、こうしたコミュニケーションに対する指導を「人」が行うことへの課題も挙げた。人間による研修だと、型にはまった会話になってしまうことが多い。実際の業務に落とし込んだ際の応用力が向上しづらいのだ。だからこそ、AIシステムを使った再現性の高い研修をしていく必要があるという。
このような経緯で、同社ではAIによる対話トレーニングアプリの開発を強化。コロナ禍に「対話プログラム」の開発を進め、生成AIとの会話を実現させた。13年にAIの研究を開始して以降、培ってきたさまざまな技術を総括して「iRolePlay」が誕生した。
「iRolePlay」の今後は? リリースはいつ?
対話練習ツール「iRolePlay」に関して、現状はまだトライアル期間だという。トライアル中の企業からは「非常に効率的」「次から次と試せるのがいい」と好評で、来年度以降、本格導入を予定している。
カスハラ対策は、これまで社内での対話など再現性の低い方法でしか行われていなかった。しかし今やAIを活用しながら、企業と人材の育成見直しを図れる時代となった。AIを活用したカスハラ対策の研修では、隣の人と同じやり方で同じ評価が受けられる。
またカスハラ対策をしておくことで、ストレスフルな事象が改善し、心に余裕を持てるようになるかもしれない。
「AIを使い勉強や練習を重ねながら、人間は『より良いお客さま対応ができるためにはどうするか』を突き詰めていくべきでしょう」(関根代表)
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