会社の適切な対応は?
未払い残業代は、本来支払うべき時期に支払われなかった賃金なので、民法上でいう債務不履行に該当します。そのため残業代に加え、支払いが遅れたとして遅延延滞金を請求されることがあります。
遅延延滞金は、通常在職中の場合は23年11月現在年3%(民法404条)、退職後は年14.6%です(賃金の支払の確保等に関する法律6条より)。
また、遅延延滞金とは別に、残業代を支払わなかった会社への制裁として、未払い残業代と同額の付加金の支払いが必要になるケースもあります。遅延延滞金、付加金の支払いは、従業員もしくは元従業員が裁判を起こし、主張が認められた場合にのみ発生します。
残業代を未払いした場合、労働基準法違反として6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される恐れがあります(労働基準法37条・119条)。
では、退職者に未払い残業代を請求された場合、会社はどのような対応を取ればいいでしょうか。以下の3ステップを確認してください。
(1)退職者と連絡を取り、誠実に対応する
請求を放置したままにしておくと、後日ユニオンに駆け込まれたり、労働審判や民事訴訟を起こされる恐れがあり、交渉がこじれてしまいます。退職者からの未払い残業代請求は、内容証明郵便を出す場合が多いので、受け取ったらすぐに連絡を取り、誠実な対応をするようにしましょう。
(2)請求内容が残業に該当するか否か、該当した場合請求金額が適正かを調査する
退職者には、自らが手帳などに書き記した日々の出退勤記録や退勤前に家族に送ったメールなど、残業の証拠になる記録を持っていれば提出してもらい、会社側の出退勤記録などと突き合わせをします。
また、残業時間中に仕事と無関係なことをしていなかったかなど、他の社員からの聞き取りを通じて残業の有無を確認します。
特にサービス残業の場合、従業員側にそのことを示す記録などの証拠があり、会社側に証拠を覆すだけの対抗材料がなければ、未払い残業代が発生する可能性が高くなります。
(3)未払い残業代の有無について退職者に回答する
検討の結果残業代支払いの必要がある場合、会社が計算した残業代を退職者本人に提示するとともに、支払い時期や支払い方法などを決定し、合意書を取り交わします。残業代の計算額に相違がある場合は話し合いが必要です。時効の成立や従業員側の請求を認めないことにより支払いをしない場合でも、その後の争いに発展することを避けるため、十分な説明を行い納得してもらうことが大切です。
未払い残業代が発生すると、支払いは在職社員、退職者の両方に及びます。1人に支払った場合、他の社員にも未払い残業代があれば同様に支払いが必要です。1人に高額の未払い残業代を支払うケース、1人分は低額でも対象が複数でまとまった額になるケース、従業員に裁判を起こされて未払い残業代に加えて遅延延滞金や付加金の支払いが必要になるケース――など、支払いが会社経営を圧迫することもありえます。
さらに、未払い残業代は労働基準法の違反につながります。そこで、企業は未払い残業代が発生しないような対策を講じる必要があります。一例としては、以下の4つが考えられます。
(1)従業員の勤務時間を把握できるような労働時間管理の仕組みを導入し、サービス残業の防止につなげる
(2)残業をする場合は、上司の許可制にすることで無駄な残業をさせないようにする
(3)残業をなくす、もしくは減らすよう労務管理の見直しを行う
(4)固定残業代、みなし労働時間、変形労働時間制を導入している場合は、総務が制度の内容を確認し、適正に運用することで未払い残業代が出ないようにする
木村政美
1963年生まれ。旅行会社、話し方セミナー運営会社、大手生命保険会社の営業職を経て2004年社会保険労務士・行政書士・FP事務所を開業。労務管理に関する企業相談、セミナー講師、執筆を多数行う。2011年より千葉産業保健総合支援センターメンタルヘルス対策促進員、2020年より厚生労働省働き方改革推進支援センター派遣専門家受嘱。
現代ビジネス、ダイヤモンド・オンライン、オトナンサーなどで執筆中。
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