便乗値上げ? 電力会社が異例の「最高益ラッシュ」そのカラクリとは:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
エネルギー価格の高騰に伴う値上げで、全国の電力会社が大幅増収・増益を達成しており、異例の「最高益ラッシュ」が相次いでいる。顧客が値上げに苦しんでいる中で電力会社の懐は暖かいようにみえるこの現象は、一見便乗値上げのように映るかもしれない。何が起きているのか。
全国の電力会社が異例の「最高益ラッシュ」を記録している。
近年のインフレと円安に伴うエネルギー価格の高騰は、全国的な電気代の値上げをもたらした。電力大手各社は大幅増収・増益を達成しており、最高益を更新する例が相次いでいる。
日本には大手電力会社が全部で10社存在しているが、決算が出そろっている第2四半期までの累計では全ての大手電力会社が黒字化している。23年度は中部電力の他に関西電力や東北電力、九州電力が最高益を更新する業績予想を発表しており「最高益ラッシュ」と言って差し支えないだろう。
顧客が値上げに苦しんでいる中で電力会社の懐は暖かいようにみえるこの現象は、一見「便乗値上げ」のように映るかもしれない。
エネルギー価格高騰で電力会社は最高益……「便乗値上げ」なのか?
岸田政権は家計の負担軽減のため、9月分までは1キロワット当たり7円程度を補助。その後は12月分まで同3.5円と補助金の額を半減させた。
2024年以降まで制度が延長されるかは現段階で不明で、このままでは年明け分から補助金切れに伴うもう一段の電気代値上がりが懸念されている。家計や企業の光熱費費負担が一層重くなることを覚悟しておいた方がよさそうだ。
その一方で、電力会社は最高益が相次ぐ。中でも、原発の運転が停止しており、火力発電の割合が高い会社の増益幅が著しい。例えば、中部電力が10月27日に発表した23年度第2四半期決算によれば、同社の営業利益は期首からの累計で2456億円の黒字だった。前年同期の612億円と比べて301%にも上る大幅増益となっており、史上最高益の更新がほぼ確実視されている。
しかし、よくよく電力各社の決算動向を確認してみると、大手電力各社の財務状況は22〜23年度にかけて一斉に赤字基調になっている点に注目しておきたい。
赤字幅が大きい電力会社は東京電力で、23年3月期当時の営業利益は2289億円の赤字であった。東京電力は22年3月期の営業利益が462億円、24年3月期の営業利益予想値が1500億円の黒字であることから、23年度の赤字は値上げ後の増益をもってしてもいまだにカバーできていないことになる。
このように、全国的な電力会社の大幅増益の背景には、22年度以降のエネルギーコストの高騰をギリギリまで価格に転嫁してこなかったという事情もある。従って、現在の値上げはそれまでに負担してきた部分を回収するという意図も含まれている。
なお電力会社の収益構造は、単に電気料金の値上げだけでなく、効率化やコスト削減などによっても支えられている。また、天然ガスなどの調達契約において、長期契約による安定した価格での仕入れや原発の稼働状況によって、収益は電力会社ごとに異なる面もある。
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