『ONE PIECE FILM RED』から『マリオ』まで、増えるリバイバル上映と変化するその様相(2/2 ページ)
10月にかけて話題のアニメ映画の“リバイバル上映”が、かなりの数集中しました。“リバイバル上映”と聞くと、かつては昔の映画や古い作品をもう一度スクリーンで鑑賞するための特別興行のイメージが強かったのですが、昨今はその様相が少し変わってきているようです。
アンコール上映増加の背景
こうした新作映画のアンコール上映が増えてきている背景としては、大きく2つのポイントが考えられます。
1つは、昨今の盛り上がりを受けた興行側によるアニメ映画への期待の高まりです。
コロナ禍での大ダメージを救う歴史的ヒットを生んだ劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』以降、興収100億円突破作品が邦画史上類をみないほど続出している中では、限られたスクリーン数や上映時間を割いてでも、配給や劇場側がヒットしたアニメ映画を再び上映することに積極的になることにもうなずけます。
もう1つは、作品を映画館で鑑賞することの体験価値の高まりです。
これまでなぜ、新作映画がすぐに再上映されなかったかというと、終映後すぐでは映像ソフトの発売や配信の開始とも重なるため、いつでもどこでも好きなだけ視聴できる作品を、新作映画を差し置いてわざわざ映画館にまでみに行く人は少ないだろうと、考えられていたところもあると思います。
しかし、20日からアンコール上映された『ONE PIECE FILM RED』が週末観客動員数で首位を飾り、新たに興収1.6億円を記録したことからもうかがえるように、既に映像ソフトも発売され、定額見放題配信さえ行われているにもかかわらず、“いつでもどこでも好きなだけ視聴できる作品をわざわざ映画館にみに行く人”が、現状これほどまでに存在しているのです。
これには、配信で手軽に膨大な作品が視聴できるようになった一方で、逆に映画館での鑑賞体験の価値が再発見されたことや、複数回鑑賞の定着といった観客の鑑賞習慣の変化なども関わっていることが考えられます。
10月は特にアンコール上映、もといリバイバル上映の増加が目立っていましたが、その他にも最近は、通常であれば徐々にフェードアウトしていた映画の上映期間に“終映日を設けて今一度最後の盛り上がりを生み出す”ようになるなど、アニメ映画を取り巻く興行文化全体が徐々に変化してきています。
話題としては興収や作品そのものに目がいきがちですが、同時にそれらを取り巻くこうした配給や興行形式の変化にも目を向けてみることで、昨今のアニメ映画のかつてないほどの盛り上がりのメカニズムも、ひもといていけるのかもしれません。
著者プロフィール
小新井涼(こあらい りょう)
北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。
ヤフーニュース個人:アニメウォッチャー 小新井涼
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