土木建設にタクシー運転手──きつくても「人が集まり辞めない」企業の秘密とは?:働き方の「今」を知る(3/6 ページ)
人手不足が深刻化している。特に土木建設やタクシー業界など「きつい」イメージのある職種では採用に苦心する企業が多い。しかし、そんな中でも人が集まり辞めない会社がある。その背景には、どんな秘密が隠されているのか──?
未経験者でも活躍できる秘訣は
ここまで徹底した方針の会社となれば、さぞかし採用基準も厳しく、社風にも緊張感が漂っているように想像してしまうが、実態はまったく異なる。同社では建設業界未経験者であっても、真面目に作業をこなせる人物であれば採用し、自社で育成していく方針なのだ。
実際に、同社メンバーの前職は引越業、出版社、銀行員、接客業など多様だ。業務に必要な「土木施工管理技士」「建築施工管理技士」といった資格はいずれも国家資格だが、学習費用から受験費用まで全て会社が負担し、資格取得を支援している。
「言われたことを言われた通りにこなすのが得意」という、一般にはあまり自己PRにならない特徴も、同社であれば十分に生かせる強みとなるという。
内勤スタッフは、ほぼ残業ナシ。建設現場作業を担当するスタッフはもちろん現場に合わせた作業時間となるが、現場は東京・多摩地区を中心として原則東京・埼玉のみ。遠方の現場はないので、必然的に拘束時間は短めだ。
また、スタッフの半数以上は既婚で子どもをもっているため「社員だけでなく社員の家族まで大切に」というのが同社のモットーだ。休みを取りやすいことはもちろん、家庭事情で早く帰らないといけない場合は事前に申請すれば配慮されるうえ、保育園に子どもを預けられない日などは、子どもと同伴で出社する社員もいる社風なのだ。
待遇面においても、同社は業界に先んじて建設技能工および建設技術者の週休2日制、および月給制を導入(希望者のみ日給制)。天候に左右されない、安定した待遇を実現している。中途採用の初任給は業界未経験者であっても月28万円を保障しており、賞与は決算賞与を含めて年3回支給。入社5年目で月給50万円台に至っているメンバーもいるという高待遇を実現している。
経営者の人柄
経営者が仕事にストイックだと、従業員に対しても高いレベルを求めて過度なプレッシャーを与えるケースがよくあるが、その点においても同社は例外だ。筆者が同社社員にインタビューしたところ、社長の率直な印象として下記の答えが集まった
話がしやすく、自分の話も聞いてもらえる。仕事に行き詰まったときなどに質問したら、単純明快な回答が得られるので頼りになる。いざこざがあっても相談に乗ってくれる。
全ての現場が頭に入っていて、仕事の流れも全部把握できている。忙しいはずなのに、細かいタスクの期日などもきちんと把握して対応できているのがすごい。
心根が良い人で、声を荒げることもない。社員一人一人のことを常に気にかけていることが分かるので、仮に怒ったとしても嫌な気持ちにならない。また新人には直接怒らず、上司から注意させたりするなどの配慮もされている。
このように、手放しの評価ぶりであったのが印象的であった。
人望ある代表だが、それでも自身が第一線で指揮をとれなくなるリスクを鑑み、段階的に権限を委譲中なのだという。現在は、自社の内情や今後の方向性について内外に積極的な情報発信をしているとのこと。ちまたのコンサルタントが労働環境改善のためにアドバイスする内容を全て先取りして実践していることが、同社の高い従業員エンゲージメントと定着率に表れているのだった。
なお、同社の活動エリアは埼玉県を中心とする首都圏と多摩地区と述べたが、3年前に沖縄県に進出を果たした。
沖縄では台風や潮風などの影響があるため、住宅といえば鉄筋コンクリート造が一般的だ。ただし、それだとどうしても注文建築となってしまい、費用も高額となってしまう。現在は木造であっても、沖縄の環境に耐えうる住宅建築が技術的かつ費用面でも現実的に可能となったこともあり、同社は沖縄で木造戸建住宅を建設する市場を開拓。迅速な工事と低廉な費用によって、県内における木造戸建住宅の実に40%のシェアを獲得している。これからは50%以上のシェア獲得に向けて業容を拡大しているところだ。
一見死角のなさそうな同社の現在の懸案は、沖縄ではすぐに集まる人材も、埼玉ではなかなか集まりにくいことだという。これだけの労働環境と待遇を実現できていても、なお人手不足に苦しむ建設業界の苦悩が垣間見えた。
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