土木建設にタクシー運転手──きつくても「人が集まり辞めない」企業の秘密とは?:働き方の「今」を知る(4/6 ページ)
人手不足が深刻化している。特に土木建設やタクシー業界など「きつい」イメージのある職種では採用に苦心する企業が多い。しかし、そんな中でも人が集まり辞めない会社がある。その背景には、どんな秘密が隠されているのか──?
タクシードライバーが足りない! そんな中でも採用できる企業とは……
昨今、ライドシェアの解禁議論などで話題となっているタクシー業界においても、人手不足は深刻化している。帝国データバンクの調査によると、10年前と比較して、ドライバーを含めた従業員数が「減少した」と回答した企業は、対象2428社のうち69.7%と、約7割にものぼっている。
このうち「半減以上」と回答した企業は14.5%。従業員数で見ても、13年は1社につき平均で66人の水準だったところ、23年8月時点では同52人に減少。新型コロナの感染拡大で一時、利用客が大幅に減って収入が減少したことや、車内での感染への懸念などから運転手が離職するケースが相次ぎ、直近の4年で減少はさらに進んだとみられている。
タクシー業界では減少が続くドライバー確保に向け、賃上げによる待遇向上の必要性が指摘されているものの、22年度の調査ではタクシー会社の半数近くにあたる46.7%が赤字の状況だ。さらには厚生労働省の調査によると、タクシー会社で働く運転手の平均年齢は22年時点で58.3歳。
新型コロナの5類移行による外出・旅行機会の増加や、訪日外国人数の回復など、タクシー利用者の需要が増えている絶好のタイミングであるにもかかわらず、稼働できるタクシーが足りず、また乗務員数も減少し、現役ドライバーは高齢化、しかも人手不足という過酷な環境のため、せっかくのビジネスチャンスを取り逃している状況だ。
また、地方では過疎化した地域における路線バスの減便や路線廃止が進みつつあり、地元高齢者を中心に移動が困難になる事態が発生している。そこでタクシーこそが移動における最後の生命線となるところだが、業界をとりまく状況から、期待される役割を担えていない面もある。
さらに、来年からは、運送業のドライバーに対しても時間外労働時間の上限が適用される「2024年問題※」が加わる。労働時間管理の厳格化による安全衛生対策が進むというプラス面がある一方で、各社とも業績復調を目指す中で残業抑制対策が求められることとなり、時間外労働をしてでも収入確保したいドライバーが業界から離れてしまうリスクも含め、対応に苦慮している企業も多い。
注:2024年問題について
「時間外労働の上限規制」は、働き方改革関連法により2019年4月から施行済。ただし上限適用により大きな影響を被ることが懸念される業種のひとつとして、タクシー業界を含む運送業には、これまで猶予期間が設けられていた。その猶予期間も2024年4月に終了し、以降は上限規制が適用されることになる。
一般企業における時間外労働時間の上限は、原則として「月45時間、年間360時間」まで。臨時的・特別な事情があって労使間での合意が得られた場合(特別条項付き)でも、「年間最大720時間、2〜6カ月平均80時間以内、単月100時間未満」との条件がつく。しかしドライバーについては、原則こそ一般企業と同様だが、特別条項付きの年間残業時間上限は最大960時間(休日労働を含まない)まで。さらに、「2〜6カ月平均」「単月」の上限規制、原則(月45時間)を上回る月の上限は適用されないこととなっている)
待遇や勤務体系を含め、労働環境面でこれまで以上に柔軟な対応強く求められるタクシー業界。「人を大切にする」と宣言しながらもお題目だけで終わってしまう会社が多い中で、従業員の希望を優先した勤務シフト、手厚い研修とサポート体制、給料保障、遠方在住者への支援など充実した制度を用意し、文字通りの「社員第一主義」を実践。多くの応募希望者を集め、採用・定着に成功し、好業績を実現しているタクシー会社がある。それが東京都杉並区に本社を置き、都内23区および武蔵野市、三鷹市を営業エリアとする葵交通だ。
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