土木建設にタクシー運転手──きつくても「人が集まり辞めない」企業の秘密とは?:働き方の「今」を知る(5/6 ページ)
人手不足が深刻化している。特に土木建設やタクシー業界など「きつい」イメージのある職種では採用に苦心する企業が多い。しかし、そんな中でも人が集まり辞めない会社がある。その背景には、どんな秘密が隠されているのか──?
(4)葵交通株式会社(東京都・タクシー業)
葵交通は1951年(昭和26年)創業。現在は東証スタンダード上場企業の日産東京販売ホールディングスのグループ会社となり、従業員数146人、タクシー62台を擁する中堅規模の会社だ。
東京都内でタクシーを利用されたことがある読者であれば、たまに「優良」と表示されたステッカーを貼った車を見かけたことがあるかもしれない。これは、都内タクシー事業者の登録や評価などを実施する公益財団法人「東京タクシーセンター」が発行しており、同センターが「接客・サービス」「安全・運行管理」「経営姿勢」の3面からタクシー事業者をランク評価したものだ。葵交通はその中でも「特別優良表彰会社」として23年連続表彰されており、都内タクシー会社の中でも信頼と実績のある会社といえる。
ちなみに、同センターは車両運行の停止や乗務員試験の実施、資格交付などで大きな権限を持っている。例えば、平日夜の銀座では「優良乗場」以外では営業できないルールがある。また優良認定に際しては、乗車拒否や迂回運転、駐車違反や速度違反なども減点対象となる厳しい審査が実施されており、葵交通は100点満点で代表受賞となっている。
柔軟な勤務体制に引かれて集まる人々
慢性的に人手不足のタクシー業界は人材採用に積極的な会社が多く、高給を保障し、未経験者でも自社養成で二種免許を取得できるようにするなど、各社とも工夫を凝らしている。葵交通も例外ではなく、未経験者も積極的に受け容れ、二種免許取得費用や各種講習費用は全額会社負担。二種免許の養成期間中であっても、月給は20万円を保障するとともに、初乗務から6カ月間は月給30万円を最低保証としている。
さらに、早朝や夜勤の乗務があるなど不規則になりがちなシフトについても、週休2日連休を基本とし、勤務前月に乗務員全員の希望休日をヒアリングしたうえで出勤計画が立てられる。乗務員が自由にシフトを決められるタクシー会社は都内でも稀有(けう)な存在だ。そのため、ゴールデンウイークや年末年始などに休みが固まってしまうこともあるが、従業員の働きやすさを重視するために、希望をそのまま受け入れている。その結果、シングルマザーの応募が増え、契約保育所を用意するまでに至っているのだ。
また地方から上京して勤務する人のために、完全個室寮を用意。入居に当たっての初期費用も会社が負担し、家賃も最初の1年間は月2万5000円を会社が負担するとともに、家族やペットの入居も相談可能としている。
さらには、国土交通省が職場環境改善に取り組んでいる運送事業者を認証する「働きやすい職場認証制度」において同社は「二つ星」を獲得。これは法令順守、労働時間・休日、多様な人材の確保・育成、自主性・先進性などの項目について審査要件を満たした事業者が認証されるものであり、良好な職場環境を維持できている証左となるものだ。
他にも同社では有給休暇日数、労働災害・通勤災害の補償、病気やケガで働けない場合の所得補償など、法定基準を上回る基準で制度設計がなされており、従業員が安心して働ける環境を手厚く整えている。
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