「ITの多重下請け構造は最悪」 エンジニアの“報酬中抜き”が許せないと考えた理由
PE-BANKは日本でフリーランスの働き方が一般的ではない時代から、ITフリーランスエンジニアの働き方を支援するエージェント事業に取り組んできた。今回、所属するエンジニアのキャリア自律を支援する福利厚生サービス「Pe-BANKカレッジ」の提供を始めた。その理由を社長に聞いた。
フリーランスのITエンジニアと企業をつなぐエージェント事業を30年以上にわたって展開しているPE-BANK(東京・港区)は、所属するエンジニアのキャリア自律を支援する福利厚生サービス「Pe-BANKカレッジ」の提供を2023年11月14日から始めた。柱となるのはITエンジニアのスキルアセスメント、副業制度支援、ネクストキャリア形成の3つ。特に従業員の副業を支援する福利厚生の提供は、同社によれば業界初だという。
PE-BANKは平成元年に協同組合として事業を始めた。日本でフリーランスの働き方が一般的ではない時代から、ITフリーランスエンジニアの働き方を支援するエージェント事業に取り組み、現在2300人以上のエンジニアが所属。全国12カ所に拠点を持ち、この10年間の取扱高の成長率は183%と高い伸びを見せている。今回Pe-BANKカレッジを始めた理由を、代表取締役社長の髙田幹也氏に聞いた。
髙田幹也(たかだ・みきや)PE-BANK代表取締役社長。1998年に現在のグループ会社のナイキ情報サービスに新卒で入社。製造業関係のプログラマーなど、技術者としてキャリアを積む。2009年にアスノシステムに社名変更し、東京と和歌山の責任者を兼務。2015年にアスノシステム常務取締役、2018年に専務取締役に就任。2019年11月から現職
【編集部より:2023年12月22日午後7時17分 タイトルを修正いたしました】
フリーランスエンジニア「報酬中抜かれ問題」 回避策は?
PE-BANKによる業界初のサービスPe-BANKカレッジの発表会は、11月14日に東京都内で開催された。これは企業が働くITエンジニアのキャリア自律を支援する福利厚生サービスで、企業向けに3つのサービスを提供する。
1つ目は、ITエンジニアが自分の市場価値を認識できるスキルアセスメント。従業員として勤務するITエンジニアが、キャリアコンサルタントによるキャリア相談を受けることで、自分の強みと弱みを理解し、キャリアアップに向けた道筋をイメージできる。同時に企業も、従業員のスキルについて共通認識を持てる。
2つ目は副業制度支援。副業規定を活用して、従業員が社外で業務委託契約による就業ができるように、現役フリーランスとの座談会などを通してノウハウを学ぶ。企業にとっては、従業員の副業を支援し、副業制度の活用率の向上を目指すことができる。
3つ目がネクストキャリア形成への支援。フリーランスとして働く際に必要な、会計、社会保障、税金、関係法令などが学べるもので、所属企業が従業員に福利厚生として提供する。
なぜ、企業で働くITエンジニアのキャリア自律を支援するのか。その背景を髙田氏は次のように述べた。
「働き方に変化が起きたこともあり、毎月のように多くのITエンジニアが独立しています。
フリーランスのITエンジニアは全国で20万人を超えたといわれていますが、おそらく5年から10年のうちに30万人以上に増えていくでしょう。また、企業で働くエンジニアの高齢化も進んでいて、技術力の高いエンジニアの退職が増えてくることも予想されます。
ただ、サラリーマンの場合は言われたことをしていれば給料をもらえるので、年数を重ねるうちに努力しなくなるケースもあります。頑張っても給料が上がらないと考えている人も少なくないでしょう。しかし、レベルの高い技術者であれば、フリーランスになることによって、自分の好きなプロジェクトを選べるなど、自分で自分のキャリアパスを選択することが可能になります。
当社はITフリーランスエンジニアの地位向上を目指して、エージェント事業を展開してきました。長年のノウハウや人材のネットワークを生かして、フリーランス予備軍も含めてスキルアップを支援したい。その思いを実現するのがPE-BANKです」
ITフリーランスと共同受注して多重下請けを回避
PE-BANKは全国に12カ所の拠点があり、企業とITフリーランスエンジニアをつなぐエージェント事業が売上高の9割を占める。ITフリーランスに業務委託する際には、下請けとして業務委託をするのではなく、PE-BANKとITフリーランスがジョイントベンチャーを組んで共同受注する形をとることが特徴だと髙田氏は説明する。
「創業当時はITフリーランスという言葉はまだ知られていませんでした。そこで、1989年に協同組合として立ち上げ、当社の営業が仕事を探して、ITフリーランスとジョイントベンチャーとして共同受注する方式で業務を始めました。代表企業が当社で、ITフリーランスが技術提供をする形です。下請け構造ではありませんので、登録しているITフリーランスの方とは仲間という意識が強いですね」
国内のIT業界では多重下請け構造が課題となっている。ITフリーランスは多重下請けの末端で不利益を被るケースもある。共同受注はこうした課題を解決する1つの方法といえる。
「多重下請け構造は最悪ですよね。大手が一括で請け負うのはいいと思います。しかし、2次、3次、4次と多重下請けになって、ITフリーランスエンジニアの報酬が中抜きされている状況は残念ながら今でもあります。しかも、発注した企業にとっても、1人あたり100万円を払って100万円の技術者を雇ったつもりなのに、実際には中抜きされて60万円の技術者を雇っている構図になることも問題です。
当社では極力1次下請けとして仕事を受注するとともに、エンジニアには企業が発注した金額を全部見せます。インボイス制度が始まったことで、登録番号がない事業者とはジョイントベンチャーを組めない状況も起きていますが、その際にも契約内容はフルオープンにして、共同受注と同様の形をとっています。エンジニアの不利益にならないようにすることが第一です」
生成AIはエンジニアの仕事を奪うのか
一方で、今後ITエンジニアに影響を与えると考えられているのが生成AIだ。髙田氏は、生成AIによってエンジニアの需要が減る可能性があるものの、生き残っていく道は十分にあると話す。
「生成AIはまだどうなるか分かりませんが、エンジニアにとって厳しい面はあると思います。開発のプログラミングが生成AIに変わっていく中で、日本語は英語と違って複数の意味を含んでいる点でおそらく障壁になるでしょう。エンジニアの需要は少し減っていく可能性があります。
その一方で、業務に特化したエンジニアであれば、生成AIとは関係なく活躍できると思います。専門性があるだけではなくて、特定の業界に特化していくか、もしくはとことん技術力を上げていくことが、今後フリーランスが生き残っていく上では重要になってくるのではないでしょうか」
あらゆる業務にITが活用される時代になったことから、PE-BANKとしても協業する企業は今後も増えていくと考えている。高田氏は今後もITフリーランスとのネットワークを構築していくことの重要性を感じている。
「働き方が変わってきているので、ITフリーランスの活躍の場が広がる一方、逆に社員に戻る場合もあると思います。私たちとITフリーランスがずっとつながりを持ち続けることで、お互いにどんな変化にも対応できます。従来の業務とPe-BANKカレッジを通して、人を大事にすることで変化を乗り越えていきたいですね」
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