日本製鐵のUSスチール買収、円安なのになぜ? 「数千億円の損失」リスクも:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
日本製鐵のUSスチール買収のニュースは、日本のみならず米国の一般市民やバイデン大統領さえ懸念を隠さないほどの衝撃をもたらした。しかし、今の為替レートは数十年ぶりの歴史的な円安だ。同社はなぜ今、買収に踏み切ったのか。
鉄鋼王カーネギーの会社が日本製鐵に買収されるとは──。
12月18日に発表された特大ニュースは、日本のみならず米国の一般市民やバイデン大統領さえ懸念を隠さないほどの衝撃をもたらした。かつて米国で最大の企業であった鉄鋼会社U.S.スチールは、1901年にアンドリュー・カーネギーを中心に、金融界の大物J.P.モルガンやチャールズ・M・シュワブらによって設立された。
もともとはカーネギーのカーネギー・スチール・カンパニーといくつかの小さな鉄鋼会社が合併して誕生したものだが、同社は20世紀における米国の経済成長を象徴するような企業であるとされる。そんな企業が、米国にとっての“外資系”である日本製鐵に買収されるとは寝耳に水であっただろう。
さらに、今の為替レートは数十年ぶりの歴史的な円安。そんな時期に海外の企業を買収するのは為替レートだけで考えれば「最悪」のタイミングであるともいえ、不意打ちのニュースとして世界を駆け巡ったのだ。同社の狙いはどこにあるのか。
大失敗が多い? 企業の巨額買収
今回、日本製鐵はUSスチールを2兆円で買収する見込みであるという。ただし、市場の反応はいささか冷ややかで、株価は下げに転じた。最も傷口が大きかったのは、日鉄ソリューションズのような日本製鐵の上場子会社だ。東証再編に伴い、近年では親子上場を解消する動きが市場のトレンドとなっていたが、日本製鐵はUSスチールの買収によって子会社を買収する余裕がなくなったのではないかという観測が売りを誘っている。
このように、巨額買収を仕掛けた企業の株価は一般に下落するケースが多い。買収には大きな財務負担や経営統合の不確実性が伴い、これが将来の利益やキャッシュフローに悪影響を及ぼす可能性があると投資家が見なすためだ。また、買収によるシナジー効果が不透明であると見なされる場合、市場は懸念を示し、株価が下落することがある。
日本企業の巨額買収については、懐疑的な見方も多い。20日に上場廃止になった東芝も、元をたどれば2006年にウェスチングハウスを約54億ドルで買収したが、巨額損失が東芝に大きな財務危機をもたらし、弱体化の一つの要因となった。
日本郵政は15年2月18日、オーストラリアの物流大手トールを6200億円で買収し、わずか2年後に4000億円の減損処理を行った。21年にも追加で674億円の損失を計上し、IPOで調達した6930億円の大半が水の泡となった。
ダイキン工業のグッドマン・グローバル買収も失敗例の一つだ。ダイキン工業は12年に米国の空調機メーカー、グッドマン・グローバルを39億ドルで買収したが、その後の業績は期待を下回ってしまった。
買収当時はピカピカに見えた企業も、その内情はボロボロということは往々にしてある。米国を象徴する企業であるはずのUSスチールが簡単に買収に応じることには何か裏があるのかもしれないと懸念する市場の動きもうなずける。
実は成功例も多い
ただ、16年にソフトバンクグループが実施したアームホールディングス買収のように、テクノロジー分野における最大級の買収として懸念されたものの、巨額のキャピタルゲインをもたらした案件があることも確かだ。
他にも、あまり目立ってはいないが、アサヒグループホールディングスの英フルスミス・ビール買収も成功している。アサヒグループホールディングスは16年、欧州のビールメーカーであるアンハイザー・ブッシュ・インベブの欧州5ブランドを約26億ユーロで買収した。これによりアサヒは、欧州でのビール市場でのプレゼンスを大きく高めることに成功し、足元の円安相場で利益率をより向上させるに至った。
成功例に共通する部分としては、自社がよく知っていたり、収益の柱となっている海外の事業に投資したりしているのもあるだろう。従って、日本製鐵のU.Sスチールの買収も、どちらかといえば成功しやすいM&Aの可能性もある。
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