「職人に優しくない」ECサイトが傾くワケーー米大手で社員11%レイオフ騒動:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/2 ページ)
ハンドメイドやクラフト商品の作り手と、消費者が直接売買できる大手マーケットプレース「Etsy(エッツィー)」が11%の従業員をレイオフすることを発表し、話題になっている。業績不調の原因と、これから生き残る術とは。
成長が鈍化した3つの理由
Etsyの成長を鈍化させた理由として以下が挙げられます。
1. 個人消費の減速により、販売量が増えなくなった
米国における10月の個人消費支出は前月比0.2%増と、9月の前月比0.7%増から大幅に減少しています。背景には所得の伸びの鈍化、金利と物価の高止まり、貯蓄の減少、学生ローンの返済再開などが重なり、アメリカ人の消費支出を増加させ続ける力が弱まっていると指摘する声があります。
2. SHEINなどの登場で新規顧客獲得コストやデジタル広告のコストが上がった
ジョシュ・シルバーマン最高経営責任者(CEO)は、SHEINとTemuの2社が「特にグーグルとメタの一部の有料チャンネルにおいて、ほぼ単独で広告コストに影響を与えている」と指摘し、広告費の高騰も収益化において大きな足枷になっていることを明かしています。
3. 売り手であるアーティストへのケアが足りない
22年の手数料アップの件からも分かるように、Etsyではアーティスト側への配慮がもっと必要だったのではないかという意見もあります。例えば、アーティストがもっと多くの顧客を獲得するために何が必要かを分析し、レコメンドするツールなどを提供する必要があったという指摘です。
「職人には、規模を拡大するための支援が必要だ。AIの活用やマーケティング支援は、彼らに提供・販売できる素晴らしいサービスだろう」というコメントも見受けられます。
AIを活用することで売り手がより多くの買い手に自分の商品を見せられ、買い手が好むテイストに合わせたマッチングも可能になります。売り手がいなくなればサイト上でのコンテンツが減ってしまい、必然的に販売量も減ることになるため、売り手への技術投資、マーケティング支援投資は今後必要不可欠といえるでしょう。
最近SHEINなどの格安ECサイトはアパレルだけでなく、家電や家具など取り扱う商品カテゴリーを拡大しています。Etsyも同様にアクセサリー以外のカテゴリーも取り扱い始めており、ニッチなマーケットからよりメインストリームのマーケットに成長してきたことが伺えます。
しかし、メインストリームでは価格競争が起こります。中国系ECサイトの台頭で成長機会を奪われたECは、Etsyの他にも多くあるかもしれません。今後はAIなどの技術投資をより強化して客単価を上げることが求められています。
著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
関連記事
- 横浜にオープン「レジなし店舗」の勝算は? 米では相次ぎ閉鎖も
米アマゾンの「アマゾンゴー」が近年、相次いで閉鎖している。レジなしで時短や省人化などの恩恵が期待されたが、思いがけない落とし穴が潜んでいると筆者は指摘する。 - 日本のリテールメディアが攻めあぐねる、3つの理由
近年、日本でも小売業者やメーカーが注目する「リテールメディア」。成功する米小売り大手のモデルを模倣するだけでは、成功は難しいと筆者は指摘する。なぜ模倣だけではリテールメディアは成功しないのか――。 - 日本で初の仕分け拠点 「ソートセンター」、東京・品川に開設 米アマゾン
日本初のAmazonの仕分け拠点となる「ソートセンター」が開設。商品の保管や梱包を行う「フルフィルメントセンター」と、配送を行う「デリバリーステーション」をつなぐ、配送網の中間拠点。新たに約1000人の雇用も創出する。 - ウォルマートが「広告代理店」になる日 小売りに頼らない未来の稼ぎ方
売上総利益率は70〜80%、ロスも生じず、返品される可能性もゼロ――。ウォルマートが将来を約束された、最強の売れ筋商品とは。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.