「職務給」の社員は「異動したら給与が下がる」のか?(2/2 ページ)
業務内容を給与にひも付ける「職務給」を導入する企業が増えていますが、まずは管理職層からという流れになっており、一般社員層はこれまで通り職能給のままという企業が少なくありません。一般社員層の職務給はどのような状況になっているのでしょうか。
総合職から「プロフェッショナル職」に転換する事例
B社は多くの技術者を抱える企業ですが、総合職の人事制度にはプロフェッショナル職(専門職)の設定はありません。管理職層はマネジメント職(組織長)だけです。専門職としてやっていきたい人は社内公募されている職務ポジションに応募してプロフェッショナル社員に転換することになります。B社のプロフェッショナル社員は、正社員ではありますが総合職の社員とは給与体系や処遇制度が大きく変わります。
退職金制度もなくなり、福利厚生も異なります。ずっとその職務しか担当せず、異動はありません。給与は担当職務に応じて個別に決まります。まさに、総合職からジョブ型のプロフェッショナル社員として再雇用されるような形です。
スーパーエンジニアのGAFAなどからの引き抜きに対抗できるように給料はかなりのワイドレンジになっており、上限は社長並みの金額だそうです。一般社員層の20代、30代の若手社員もプロフェッショナル社員に応募することができます。B社は、引き抜きの対象になりやすい若手プロフェッショナル社員にはもっと思い切った高処遇が必要との課題感があるとのことです。
「高市場価値人材」として抜擢(ばってき)昇格させる事例
C社は多くの技術系社員を抱え、ダイナミックな事業展開を行う企業です。C社ではIT新事業開発系と財務・投資戦略系の人材を高市場価値人材群と位置付けています。採用市場において明らかに給与水準が高い人材だという意味です。
C社では高付加価値人材のために高水準の給与テーブルを作るのではなく、昇格基準を変えることで対応しています。高市場価値人材は、昇格に必要な7つの評価項目のうち「専門性」が優れていれば、それだけで昇格できます。昇格に年齢や在籍年数は関係なく、その専門領域における社内有識者の人達が見て貢献度や能力が高いレベルであることが確認できた場合には、専門性の評価だけで高いグレードを認定します。
例えば新卒入社2年目であっても専門性が高い人は一般社員層の最上位グレードに飛び級で昇格したりしているそうです。今後、高付加価値人材群の対象をDX人材やグローバル系人材など、どこまで広げていくのかが課題だとのことです。
A社、B社、C社の事例を見ると、少なくとも現時点では、全員が職種ごとに給与が決まっていくという職務給の形は現実的ではないようです。
一般社員層の職務給は、総合職全員を職種で切り分けるのではなく、給与水準が明確に異なる特定の職種だけを総合職から切り出して職務給を適用する形で進んでいくと思われます。B社のように本人が意思を明確にしてジョブ型で再雇用される制度も、C社のように昇格運用でコントロールするやり方のどちらも広がっていく可能性がありそうです。
著者プロフィール
藤井薫
パーソル総合研究所 上席主任研究員
電機メーカーにて人事・経営企画スタッフ、金融系総合研究所にて人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム開発ベンダーにて事業統括を担当。2017年8月パーソル総合研究所に入社し、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。著書に『人事ガチャの秘密』(中公新書ラクレ)。
株式会社パーソル総合研究所
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行う。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。http://rc.persol-group.co.jp/
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