「あの頃、必死で働いたから今がある」「今の若者はヌルい」と考える上司へ:働き方の「今」を知る(1/4 ページ)
働き方改革が進む一方で「とはいえ、ハードワークで成長してきた」「今の若者はヌルい」と考えたことがある人が多いのではないだろうか。変わりゆく働き方の中で、上司や経営者はこのギャップをどのように捉えてマネジメントすべきなのか。
15年ほど前から「ブラック企業」が社会問題となり、長時間労働や過労死に世間の厳しい眼が注がれるようになった。
もはや「ブラック企業とは……」などといちいち語義を解説しなくとも、労働環境劣悪で、順法意識も低く、従業員を使い潰すような報われない会社を指すという認識が広く共有された。その結果、ブラック企業を避ける意識が若年層にも広く浸透し、就職時や転職時に選択肢から疎外されるようになった。
「ブラック企業リテラシー」は上がったように思えるが……
これにより企業側にも「労働環境や経営者の意識を改めないと、真っ当な人員を確保すること自体が困難になる」という雰囲気が定着している。
労働者側の視点で考えても、従前であれば「社会人とはこういうもの」と説明され、強制的に納得させられてきた組織内の理不尽な点や過重労働に関して「この会社、実はブラック企業なのでは?」「あの時の指導は、実はパワハラだったのでは?」と気付くきっかけが生まれた。それによって、より良好な労働環境の会社に転職したり、権利主張できるようになったりなど、前向きな行動の動機となった面もある。
労働法制面でも大きな変化があった。2019年から順次施行された働き方改革関連法には、残業時間上限規制や年次有給休暇取得義務化などが盛り込まれた。労働基準法施行以来の画期的なもので、これまでの議論の経緯から考えると相当に難度の高い結果が実現したといえよう。これにより、働き方改革に取り組むことは経営課題となり、労働環境改善の取り組みを進めることは必須要件となった。
当初、残業時間上限規制の実施が免除されていた建設業と運送業においても、5年間の猶予期間が来る2024年に終了し、4月からは他業種と同様に残業時間の規制が適用されることになる。違反した場合は「6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金」の罰則となるうえ、悪質なケースは厚生労働省による企業名の公表に至る。
このように、会社組織が何ら変化しようとせずに、ブラックな状態のままであり続けること自体がリスクとなり得る状況へと世の中全体が改善してきたわけだが、人間の心理や長年の慣習といったものは数年程度ではすぐに変わらないようだ。
「とはいえ、ハードワークで成長してきた」 拭い去れない本音
労働環境が改善し、長時間労働が忌避されるようになると今度は「最近の若者は定時帰りで、ワークライフバランスだなんだと甘やかされている!」「何か厳しいことを言うとパワハラ扱い! 今の若手は打たれ弱い!」などの苦言が目立つようになった。
昨今は創業経営者やスタートアップ企業の幹部などから「こんなヌルい若手に俺たちが負けるわけにいかない!」「成功したいなら、自らを追い込む『セルフブラック』な働き方をすべき!」といった論説も提唱され、成長意欲の高いビジネスパーソンたちから一定の支持を集めているようだ。
ちなみに「セルフブラック」とは文字通り、あくまで自らの主体的な意思によって、寝る間も惜しんでハードワークに勤しんだり、あえて過酷な労働環境に身を置いて発奮したりすることを指す。
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