「あの頃、必死で働いたから今がある」「今の若者はヌルい」と考える上司へ:働き方の「今」を知る(4/4 ページ)
働き方改革が進む一方で「とはいえ、ハードワークで成長してきた」「今の若者はヌルい」と考えたことがある人が多いのではないだろうか。変わりゆく働き方の中で、上司や経営者はこのギャップをどのように捉えてマネジメントすべきなのか。
「私の若い頃は……」がいかに無意味か
そして「セルフブラック」についても説明をよく聞けば、「成功=勤務先企業内での売上増や出世」といった定義や、「若手のうちの2〜3年程度は」といった前提条件があったりする。そういった要件を無視して「常にセルフブラックであれ!」と一方的に要求するのはあまりに短絡的といえる。
さらにはその流れで、「昔は……」「私の若い頃は……」といった昔話を語ってしまったら、それこそ「老害」認定されてしまうかもしれない。昔と今とでは、社会情勢も景気も仕事の密度も、全ての背景事情が違う。変えられない前提条件を出しても意味がないのだ。
また、同じ長時間労働でも、それに伴う精神的負荷や得られる対価によって耐久度が異なることもある。雇われの立場では「上司からの激詰めと、プレッシャーに見合わない薄給でやってられない!」と感じる残業でも、経営者やフリーランスの立場であれば「好きでやってる仕事で、やればやるだけ実入りが増える!」となれば、残業など厭わないはず。したがって、経営的立場にある人が自主的にやる分にはいいが、従業員に強いるのは絶対に避けるべきなのだ。
実際、過去表舞台から消えていったブラック企業たちは、経営陣と同レベルの高い志やハードワークをそのまま末端の社員にまで要求していたわけで、それでは当然ながら組織として持続していくはずがない。
世の中、ハードワークでなければ活躍できる人は大勢いるはず。セルフブラックはあくまで「セルフ」である以上、自分自身の志として心の中に留めておくものである。
管理職世代が注力すべきは「働き方改革による労働時間規制」と「パワハラ防止法によるコンプライアンス順守姿勢」が所与の要件となっている中で、今の若手を効果的に育成し、限られたリソースの中で適切な組織運営を行っていくことではないだろうか。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。
著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。
11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。
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