「初動が遅い」「企業は金を取るな」――震災対応への批判から見る、日本のGDPが上がらないワケ:働き方の「今」を知る(3/3 ページ)
元日に石川県能登地方を襲った最大震度7の大地震は、能登半島を中心に深刻な被害をもたらした。震災の対応に対し「初動が遅い、小規模だ」「企業は金を取るな」――といった意見が散見されるが、こうした「お客様マインド」ともいうべき態度がめぐりめぐって日本の生産性を下げてしまっているのではないか。どういうことかというと……。
日本の「1人あたりGDP」が低いワケ
2023年12月25日、内閣府が発表した22年の1人あたりGDPは、ドル換算で3万4064ドル。OECD加盟38カ国中21位で、先進7カ国で最下位という不名誉な結果となった。
こうなってしまった背景事情として、そもそもGDPという数字自体が「ドル換算」であるため、昨今の円安の影響で大きく減少してしまったことと、高齢化率が高いため、生産年齢人口割合が低く、GDPを割る分母が大きくなってしまったことがまず挙げられる(実際、日本の生産年齢人口における1人あたりGDP成長率はG7トップクラスである)。
そして、本稿で論じてきたような数々のサービスのうち、「高品質」の部分に値段がつきにくい面も理由の一つとして挙げられるのではなかろうか。諸外国では追加料金を徴収するレベルのおもてなしや対応スピード、仕上がりが「当たり前レベル」と認識され、それ自体が付加価値であると認識されていないのだ。
当然その部分には値段がつかないため、GDPの計算式には算入されない。
わが国はGDP総額では世界4位の経済大国(※)であり、これほど便利な生活を送れる国なのに、今一つ豊かさを実感できないのは、われわれ自身がお互いに身を削ることによって成立する「低価格高品質サービス」に支えられたものだからではないかと考える。
(※)日本の23年度のGDPは、ドル換算でドイツに抜かれて世界4位になる見通し。
理想論ではあるが、高品質サービスには相応の価格をつけ、安価なものは相応の対応するという動きが広がれば、1人当たりGDPも、われわれの生きやすさも高まっていくだろう。
最後となったが、今は国民が一致団結して災害復興に向かうべきタイミング。あたかも災害を利用して政府や復興を支える企業を批判しようとするような煽情的な報道は、救助活動の足を引っ張るだけの迷惑な存在だ。
賢明なる読者諸氏であれば惑わされることはないだろうが、一部報道機関や専門家諸氏においてはくれぐれも自重頂きたいところである。
また、被災地に物資を届けるなどの役割を担う企業には特に、サービスに見合った対価を得ることで活動が持続可能なものになることを願う。このように非常時でも経済が回ることに嫌悪感を抱かない世論を作ることが、日本の生産性を高める第一歩となるといえよう。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。
著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。
11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。
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