羽田事故は「システムで防げた」の暴論――”想定外の事態”は起こる、できることは?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
羽田空港で起きたJAL機と海保機の衝突事故について、「ヒューマンエラー」の切り口から考察する。事故はいつだって複数の不幸な要因が重なった結果だ。どんなにハイテク化が進んでも、想定外の事態は起こり得る。では、企業はどのように向き合うべきなのか? 大事故を防ぐ「唯一の手立て」とは?
能登半島地震に羽田空港での衝突事故と、胸の痛む出来事が続く年明けになってしまいました。1日でも早く穏やかな日々が戻ることを、心から祈るばかりです。
羽田空港で起きたJAL機と海保機の衝突事故について、今後さまざまな角度から原因が究明されていくでしょう。事故はいつだって複数の不幸な要因が重なった結果です。どんなにハイテク化が進んでも、想定外の事態は起こります。
CA(客室乗務員)の最大の任務は保安要員であり、ミッションとそのミッションを熟成させる組織風土の重要性については、他誌のコラム(日経ビジネス電子版)に書きました。本コラムでは「ヒューマンエラー」についてあれこれ考えます。
数々の”想定外の事故”を乗り越えて、分かったこと
今から20年ほど前の2005年、関西国際空港で閉鎖中の誘導路に、外国航空会社の貨物便が誤進入する事件が立て続けに2回起きました。いずれも大きな事故にはつながらなかったものの、大惨事につながりかねないミスだけに、早急に再発防止策が取られることになりました。
最初に徹底されたのが「情報の周知」です。各航空会社に事前に閉鎖中の誘導路の情報を流したり、航空管制塔でも再度閉鎖情報を伝えたりと、情報の伝達を徹底しました。
ところがその後、さらに2件の誤進入が発生します。「閉鎖中の誘導路があることは分かっていたが、標識がなかったので、どの誘導路なのか分かりづらかった」というのが、ミスの起きた原因でした。
そこで次なる対策として、カラーコーンを置いたり標識を作ったりと、物理的に誤進入を防ぐ再発防止策を徹底します。「これで大丈夫だろう」――。誰もがそう信じたそうです。
ところが、なんとその後も、誤進入が1件発生。関係者にとって想定外の出来事でした。
これらの結果から、ソフト面、ハード面の防止策に加え、ミスが起こってもそれが重大な事故につながらないような総合的なシステムを構築するしかないという結論に至ります。この世で最も不確かでコントロール不可能なものが「人間」であり、「ヒューマンエラーは起こる」という前提でさまざまな対策が何重にも施されているのが、今の航空業界です。
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