どうなる「楽天経済圏」 モバイルの巨額赤字だけでない、深刻な懐事情(1/4 ページ)
「第4の事業者」として携帯通信サービスへ鳴り物入りで参入した楽天だったが、苦境が続く。中でもオープンAI社の騒動には、相当なショックがあったのではないかと識者は分析する。
年末近くの経済ニュースで最も驚かされたのは、ChatGPTの開発で一躍世界の注目を集めたオープンAI社のサム・アルトマンCEOが突如同社の取締役会から解任され、提携先であるマイクロソフトに転籍するとの報道でした。しかしこの騒動は同社内で大きな反響を呼び「アルトマン氏が解任されるなら同社を辞める」という社員が続出。わずか5日で氏がオープンAIのCEOに復帰し、事なきを得ています。
真相は闇の中でありますが、同社に対する世界的な評価にも影響を及ぼす結果になったこの騒動。まさに「大事件」でしたが、一方で日本のビジネス界にとってはほぼほぼ対岸の火事といったところだったのではないでしょうか。もし国内で肝を冷やした人間がいたとすれば、それは楽天グループ(以下、楽天)の三木谷浩史氏(代表取締役会長兼社長最高執行役員)かもしれません。昨年8月に2023年度の半期決算を発表した際、オープンAI社と「最新AI技術によるサービス開発における協業で基本合意した」というニュースを嬉々として話をしていた姿が印象的でした。
当時の会見で三木谷氏は「楽天グループが持つ『多業務にわたるデータの豊富さ』『クライアントのネットワーク』『モバイルが持つエッジコンピューティングパワー』の3点が、提携成立の決め手になった」と話し、胸を張りました。苦境とみられる楽天モバイル巻き返しの秘密兵器として、生成AI活用による他社にないサービス提供での契約者数激増を示唆するかの如く、自身に満ちあふれた表情を見せていたのです。
ただアルトマン氏との提携合意と前後して、氏が高く評価したという「エッジコンピューティングパワー」すなわち、完全仮想化ネットワーク「楽天シンフォニー」をゼロから形にしてけん引してきた楽天モバイル共同CEOのタレック・アミン氏が突然退任してしまうという誤算がありました。
後任のシャラッド・スリオアストーア氏について、三木谷氏は「0から1をつくるタレック氏とは異なるタイプ」と明言しており、シャラッド氏の下で果たしてアルトマン氏の期待に応えるような提携が進められるのか。その行方に暗雲が垂れ込め始めていたわけなのです。
そこに加えてのアルトマン氏解任騒動ですから、三木谷氏はさぞや肝を冷したのではないかと思うわけです。騒動は収まったとはいえ、オープンAI社との提携ビジネスが思惑通りに進むのかについて、新たにかなりの不安材料が見えた印象です。
関連記事
- 起業家、楽天「三木谷浩史」はいかにして生まれたか
楽天を創業し、現在も会長兼社長を務める三木谷浩史氏。綿密な取材をもとに、そのバックグラウンドをまとめたのが山川健一氏の著書「問題児 三木谷浩史の育ち方」だ。かつては不良少年だった三木谷氏はいかにして立ち直り、起業家精神を身に着けたのだろうか。 - 三木谷浩史「AIは全てのエコシステムの中心になる」 グーグル、メタにない強みは?
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、グループを挙げてAI活用に注力することを宣言した。「AIは全てのエコシステムの中心になる」と話し、AI活用によってマーケティング、オペレーション(運営)、クライアントの事業効率をそれぞれ20%上げるよう社員に呼び掛けているという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.