三木谷浩史「AIは全てのエコシステムの中心になる」 グーグル、メタにない強みは?:楽天社員に呼び掛け
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、グループを挙げてAI活用に注力することを宣言した。「AIは全てのエコシステムの中心になる」と話し、AI活用によってマーケティング、オペレーション(運営)、クライアントの事業効率をそれぞれ20%上げるよう社員に呼び掛けているという。
楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は11月18日に開いた自社イベントの講演で、グループを挙げてAI活用に注力することを宣言した。「AIは全てのエコシステムの中心になる」と話し、AI活用によってマーケティング、オペレーション(運営)、クライアントの事業効率をそれぞれ20%上げるよう社員に呼び掛けているという。
楽天は同14日に、AIプラットフォーム「Rakuten AI for Business」を2024年以降に提供すると発表したばかりだ。Rakuten AI for Businessでは最先端のAIソリューションを駆使し、業務改善や顧客との関係性強化といった企業活動を支援する。米OpenAI協力のもと、国内外の消費者や企業に新たなAI体験を提供するという。
三木谷氏が言う「グーグルやメタにない“あるもの”」とは?
Rakuten AI for Businessには、3つの機能がある。1つ目はデータ分析やチャート作成など実用的な分析を手伝う「Rakuten AI Analyst(ラクテン エーアイ アナリスト)」。
2つ目は、企業の担当者が効率的により高度な消費者へのサービスを提供できるように手助けする「Rakuten AI Agent(ラクテン エーアイ エージェント)」で、3つ目が企業のあらゆる資料を分析し必要な情報を提供することによって顧客からの質問に迅速に回答できる「Rakuten AI Librarian(ラクテン エーアイ ライブラリアン)」だ。
この3つの機能が営業、マーケティング、カスタマーサポート、オペレーション、戦略策定、システム開発などの活動を支援する。三木谷氏は、AIサービスを展開する企業から、楽天の引き合いが多いことをアピールした。楽天の強さは同社が持つデータの保有量の多さにあるという。
「AI企業にとって、楽天のデータセットが魅力のようです。楽天はクレジットカード、銀行、証券、旅行、Eコマース、ポイント、保険と全ての事業を手掛けていて、こうした事業を全て一つのデータセットで保有しています。このようなデータを持つ企業は、世界でも他にありません。このデータでAIをきちんとトレーニングすれば、非常に強いパワーを発揮します」
加えて、90万ほどのクライアントやパートナー企業を持つなど、顧客との強力な接点がある楽天の強みを強調した。
「AIを扱っている企業は、どうすれば生成AIをトレーニングし、いろいろな企業に使ってもらえるかが分からないのです。そこで楽天はわれわれだけでなく、ホテルなどの施設、加盟店、クライアント企業、パートナーさまといった全員が、AIを活用する世界を描いていきたいのです」
米OpenAIと具体的に取り組もうとしているのはこうだ。店舗の自動化、マーケティング、カスタマーサービス、店舗のオペレーション(運営)に加え、ストラテジック・プランニング、エンジニアリングなどの領域でAI事業を展開していく。
さらに楽天はAI技術を使ったサービスの開発を進めている。自社のAIを基に開発したのが「セマンティックサーチ」だ。同機能は既にRakuten Fashionで使用できる機能であり、この機能を活用した結果、検索経由のGMS(ユーザーがネット上で売り買いした金額)が5%向上したという(セマンティックサーチでのABテストの結果。期間は7月14日〜8月8日)。
セマンティックサーチでは、例えば「今日ピクニックに行きたいけどちょっと肌寒いな、ジャケットが欲しいな」と入力すると、検索がその結果を返してくれる。デートに行きたい場合に「花火を見に行くときの最適な格好」を聞くと、その検索に対する結果を出してくれるのだ。AIを活用したこの機能を導入するまでは、そういったことはできなかったという。
C2Cのプラットフォーム「楽天ラクマ」では、ディープラーニングAIを活用したレコメンデーションの展開を始めている。ここでもコンバージョンが30%改善されたという。三木谷氏は、このような取り組み以外にも、さまざまな場面でAI活用を進めていくと意気込む。
「われわれがやろうとしているのはトランザクション(商取引)の世界にとどまるものではありません。例えばIDチェックである『KYC(Know Your Customer:ノウ ユア カスタマー)』も自動化していきます。つまり人が介在したチェックは必要なくなるのです。カスタマーセンターでも自動化された応答が返ってくるようになります」
物流面でもAIを駆使する。倉庫内でのピッキングやパッキングにも使っていくのだ。配送ルートの設定でも使う。在庫や価格の管理、検索の最適化もAIで実施していく。
「AIは単にツールの一つではありません。もはやAIは全てのエコシステムの中心になるのです。そして今後はエコシステム以上の価値を、もたらすようになります」
こうした背景から、三木谷氏はAIを使うことによって楽天の社員に、3つのことを考えてほしいと呼び掛けたという。
- マーケティングの効率を20%上げる
- オペレーション(運営)効率を20%上げる
- クライアントの効率を20%上げる
楽天は世界中に17億超のサービス利用者を持ち、直近12カ月において6600億あまりの楽天ポイントを発行している。中でも強みを持つのが先述した「データの保有量」だ。
「グーグルやメタは行動履歴データを持っていますが、トランザクションのデータを持っていません。従って楽天は世界的にも非常にユニークなのです。しかも、ほとんどの顧客が楽天で2つ以上のサービスを使っています。だから横断的に力を発揮できるのです」
三木谷氏のいう「ユニークさ」を支えているのが、楽天のグローバルな組織だという。楽天は13年前に「Englishnization(社内公用語英語化)」を掲げた。英語を公用語にすることで、世界中から優秀な人材を集められるようになったのだ。確かに同イベントの講演は三木谷氏も含め基本的に英語で行われ、会場にはさまざまな人種の社員が集まっていた。
楽天は、言葉や地域的な境を取り払うためにEnglishnizationを掲げ、現在はAI革命を目指す「AI-nization」を掲げている。
「(AI-nizationという単語については)特許を取ろうと思っています。まさにわれわれのAI革命を代弁する言葉です。サードパーティーの、あるいは外部の生成AIだけに頼るのではなく、私たち自らが本当の意味で大規模言語モデル(LLM)を作り出し、活用していくことを目指しています」
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