どうなる「楽天経済圏」 モバイルの巨額赤字だけでない、深刻な懐事情(2/4 ページ)
「第4の事業者」として携帯通信サービスへ鳴り物入りで参入した楽天だったが、苦境が続く。中でもオープンAI社の騒動には、相当なショックがあったのではないかと識者は分析する。
そもそもオープンAI社は、非営利組織と営利企業体の二重構造で構成されている、ちょっと変わった組織体です。非営利組織は、AIが営利に走って悪用されないための監視役を務めており、今回の解任劇は、営利企業体のトップであるアルトマン氏の営利事業展開が性急すぎるとの判断が根底にあったのではないか、と見られています。
この非営利組織は、オープンAI社が持つ技術の過度な軍事目的や政治目的利用に歯止めをかけることを目的としています。すなわち今回の一件から、同非営利組織がAI技術の海外流出にことさら神経を尖らせているであろうことが想像に難くありません。
楽天モバイルが他国の通信キャリアであることに加えて、楽天が中国政府とも関係の深いIT企業・テンセントから出資を受けていることなどからも、楽天との提携によるAI技術の提供には警戒感を強めて早々に歯止めをかけることも考えられるのです。依然としてモバイル事業の低迷に悩む楽天にとっては「弱り目に祟り目」的な出来事であったといえそうです。
みずほからの評価も下がってしまった楽天証券
さてその楽天ですが、ここにきてまたぞろ苦しい材料が聞こえてきています。一つは、当初株式上場による資金調達を予定していた楽天証券について。上場を断念せざるを得ない状況になり、代替策としてみずほフィナンシャルグループ(FG)に全発行株式の約30%を売却し、約870億円を調達すると発表しました。
この金額は、22年にみずほFGが約20%の株式を約800億円で取得していることを考えると、当時みずほが判断したと推定できる4000億円の企業価値から約25%も低く評価したことになり、それでも資金調達を優先せざるを得ない楽天の苦しい台所事情が垣間見えるのです。
楽天証券の上場を断念したのは、最大のライバルであるSBI証券が23年8月、日本株の売買手数料を無料にすると決めたことでした。ネット証券業界でしのぎを削っている楽天としては、ライバルの動きに追随せざるを得ず、やむなく同手数料の無料化を後追いしました。これが手数料収入の大幅減額につながることから、長期収益計画の見直しを余儀なくされ、資金確保を急ぐ苦しい事情もあって上場を断念したという流れです。結果的に、みずほFGの持株比率は5割弱まで上昇することとなり、今後楽天経済圏の核をなす存在である証券業務について、自社のフリーハンドではコトが進めにくくなりそうです。
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