「部下に任せられない管理職」が実はやっている、”間違った動機付け”(1/2 ページ)
「メンバーの力量が不足しており、プレイヤー業務を代わりにやらざるを得ない」「仕事を任せられる人材がいない」──そんな悩みを抱える管理職は多いようですが、実は部下に対し気付かぬうちにNG対応をしている可能性があります。
管理職になったのにプレイヤー業務が減らない──昨今の管理職の多くが直面する現実です。プレイヤー業務に忙殺されていることで、本来行うべきマネジメントができていないことに悩む管理職も多く存在します。「メンバーの力量が不足しており代わりにやらざるを得ない」「仕事を任せられる人材がいない」といった背景があるようです。
筆者の所属するリクルートマネジメントソリューションズが2023年に行った調査で、管理職150人に所属する会社の組織課題を尋ねたところ、最も選択率が高かった「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」(64.7%)に次いで高い選択率だったのが「中堅社員が小粒化している」(64.0%)でした。さらに、「次世代の経営を担う人材が育っていない」(62.7%)、「新価値創造・イノベーションが起こせていない」(62.7%)などが続きます。
小粒化する中堅社員に仕事を任せられず、管理職の負担は増え続け、管理職が目の前のプレイヤー業務に集中している。そのため、組織に期待される新価値創造は後回しになり、新しいことに挑戦する機会のない組織ではますます中堅社員も育たない……そんな負のループが頭に浮かんできます。
では、このような状況から抜け出すにはどうすればよいのでしょうか? 本稿では、プレイヤー業務を抱えすぎている管理職がやりがちなNG対応と、メンバーに仕事を任せる際のポイントをお伝えします。
管理職の負荷軽減のカギ
これまでのキャリアを振り返って、自分が最も「成長した」「一皮むけた」と思う経験を一つ思い出してください。それはいつ頃のどんな経験でしょうか?
筆者が開発を担当する管理職向け研修で企業の管理職の方にこの質問をすると、多くの方が中堅時代の経験を話してくださいます。またその経験の多くが、未経験の仕事や自分にとって難しい仕事に取り組んだというものです。
一通り仕事ができるようになり、部署の中で主力として活躍したり、小チームのリーダーを担ったりするようになる中堅期は、実は成長格差が生まれる時期でもあります。未経験の仕事や難しい仕事に次々取り組み、成長が加速していく人と、成長が鈍化する人とに別れるのです。
さて、改めて管理職の立場から、職場の中堅社員を見てみてください。皆さんの職場の中堅社員は、未経験の仕事や難しい仕事に取り組んでいますか? その経験から学び、成長していますか?
もしそうでない中堅社員が思い当たるなら、管理職として今持っているプレイヤー業務の一部をその中堅社員に任せてみてください。管理職の過重な負担の軽減は、中堅社員にどれだけ仕事を任せられるか、その結果どれだけ中堅社員に成長してもらえるかにかかっています。
では具体的にどのように仕事を任せていけばよいか、仕事を任せる際にやるべきでない対応は何かについて、以下で詳しくみていきましょう。
NG対応1:できる人にだけ仕事を任せている
できる人に仕事が集中するというのは、多くの職場でよく見られる現象のようです。メンバーにできる人がいない場合は、管理職に仕事が集中することになります。
しかし「できる人がやる」という発想でいる限り、メンバーに仕事を任せることも、成長を促すこともできません。
前述のように、成長につながる経験の多くは、困難な仕事、未経験の仕事です。管理職が「自分にしかできない」と思ってしまうような難度の高い仕事を、思い切って任せていくことが、メンバーの成長につながります。
そうは言っても任せるのを躊躇(ちゅうちょ)することもあるでしょう。「このメンバーにはできないだろう」と思ってしまう時には、その「できない」の解像度を上げて考えてみることが大切です。
その人が「できない」のはどの部分ですか? 例えば行動力はあるがスキルが不十分、逆に知識・スキルはあるのにやる気が感じられないなど、「できない」と判断される理由はメンバーによってそれぞれ異なるはずです。
一般に、メンバーの能力は下図のような観点で捉えられます。これらの観点を使ってメンバーの能力を分析してみてください。そして、不足している部分をどう補えるかを考えます。
同様に、任せる仕事についても解像度を上げて分析することが有効です。その仕事の何が難しく、どの部分が任せにくいと感じるのか。具体的に言葉に落としていくと、その仕事の難しさ一つ一つについて、対策を立てられます。
例えば、関係者が多く複雑な交渉や調整が発生するために、メンバーには任せにくいとしましょう。どうすればメンバーが乗り越えられるか、どのようなフォローや仕組みが必要かを考えます。
こうして、メンバーの不足している能力を補いながら、どう仕事をフォローしていくかを検討します。このような検討には時間も労力もかかりますが、今その手間をじっくりかけることが、半年先・1年先のメンバーの成長、組織力の向上につながります。
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