不正発覚しても、なぜトヨタの株は暴落しないのか:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
2024年に入って、トヨタグループ各社で不祥事が発覚し、その信頼性が揺らぐ事態を招いている。世界的な自動車グループの不正といえば、15年に発覚したドイツのフォルクスワーゲン社による排ガス不正問題が記憶に新しいが、トヨタグループは比較的、株価に影響がないようだ。なぜこのような差が生まれているのか、
2024年に入って、トヨタグループは一連の不祥事に直面している。新たに発覚したのは、豊田自動織機によるエンジンの認証取得における不正だ。トヨタ自動車が豊田自動織機に委託していたディーゼルエンジンの出力試験において、燃料の噴射量を調整して都合の良いデータを作り上げるといった不正行為が行われていた。
不正の発覚により、ランドクルーザーやハイエースなど、該当するディーゼルエンジンを搭載する10車種の出荷を停止すると発表した。豊田自動織機の伊藤浩一社長は不正の要因の一つとして「トヨタ自動車とのコミュニケーション不足」を挙げているが、グループ企業内で不正が相次ぐ現状を見るに、単なるコミュニケーションというよりも、グループ組織全体としての体質にも問題がありそうだ。
トヨタグループのダイハツ工業では認証試験に関する不正行為が明らかになり、ダイハツ製の車両に関しても出荷停止を余儀なくされている。また、同グループの愛知製鋼でも契約規格外の鋼材を出荷していたことが判明している。
一連の不祥事は、トヨタグループの信頼性に大きな打撃を与える可能性がある。世界的な自動車グループの不正といえば、15年に発覚したドイツのフォルクスワーゲン社による排ガス不正問題が記憶に新しいだろう。同社の株価は発覚から約9年が経過しても、発覚前の半額を下回っている。
しかし、トヨタグループの事例に目を向けると、株価にフォルクスワーゲンほどの大きな影響はないようだ。なぜこのような差が生まれているのか、両社を比較しながら検討していきたい。
トヨタの株価が“ほぼ無傷”なワケ
15年に発覚したフォルクスワーゲンの不正は、ディーゼル車に搭載された排出ガス制御ソフトウェアを操作するものであった。実際の走行状況とは異なる環境下で排ガス量を人為的に低減させ、規制を逃れるためのもので、別名「ディーゼルゲート事件」としても広く知られている。EUの法規制のもと当時の日本円にして3.5兆円という巨額の罰金を科され、世界中で300万台以上の車がリコールされるなど、大きな影響を及ぼした。
ではトヨタグループの豊田自動織機が行ったエンジンの認証取得における不正は、どのようなものだったのかというと、エンジンの出力試験におけるデータの不正操作だ。フォルクスワーゲンの不正は、環境規制を逃れるための明確な意図があるソフトウェアが仕組まれた一方で、トヨタグループの場合は、エンジンの性能試験データを操作していたという違いがある。
フォルクスワーゲンの事件は、外部調査によって明らかになり、大規模なリコールと企業の信頼失墜を招いた。トヨタグループの今回の不正の影響は、現状は国内にとどまっているようだが、フォルクスワーゲン社の事例を踏まえると、海外市場においても出荷停止やリコール要求、賠償問題に発展する可能性もあり得る。
フォルクスワーゲンの不正は、特に排ガスに含まれる有害物質が基準値を超えていたことや、環境規制をかいくぐっていたことで、公衆の健康に影響を及ぼす可能性が高いことから悪質であると評価された。
一方で、トヨタグループの不正は、消費者への直接的な健康リスクは相対的に少ないものの、信頼性と安全性に関する消費者の期待を軽視するものだった。環境面について評価すればフォルクスワーゲンの方がより悪質ということになるが、意図した不正で自動車の安全性に疑問符を付けたトヨタグループも、本質的な悪質さは大差ないといえる。
フォルクスワーゲンは結局、15年に発覚した排ガス不正問題からの立ち直りを、電気自動車(EV)への大規模なシフトという形で実現した。しかし、同社の株価はいまだに低調だ。不正発覚前の最高値を超えるどころか、当時の半値以下で取引されている。不正の代償は大きかった。
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