不正発覚しても、なぜトヨタの株は暴落しないのか:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
2024年に入って、トヨタグループ各社で不祥事が発覚し、その信頼性が揺らぐ事態を招いている。世界的な自動車グループの不正といえば、15年に発覚したドイツのフォルクスワーゲン社による排ガス不正問題が記憶に新しいが、トヨタグループは比較的、株価に影響がないようだ。なぜこのような差が生まれているのか、
トヨタ、不正発覚もなぜ株価が下がらない?
一方で、トヨタ自動車の株価は不正問題が表面化したにもかかわらず、大きく下がっていない。むしろ業績の上方修正や円安の進行、EV戦略への期待などにより、市場からはポジティブな評価を受けている。
トヨタ自動車の株価が大きく下がっていない理由としては、まず、同社の業績が好調であること、特に24年3月期の営業利益と営業収益が大幅に上方修正されたことにあるだろう。24年3月期の営業利益は前回予想比50%増、営業収益は前回予想比13%増に上方修正され、前期比でも増収増益となる見通しだ。
さらに、同社のような大企業は「インデックス投資の普及」という要因も株価の下支えに一役買っているとみられる。
インデックス投資とは、個別銘柄ではなく株価指数などに投資をすることで、市場参加者が個別企業の財務状況や経営の質ではなく、市場全体の動きに資金を委ねる投資手法だ。野村アセットマネジメントによれば、TOPIX指数の構成比率トップはトヨタ自動車の3.5%。新NISAなどで国内株式の投資信託を買うと、必然的に最もトヨタ株に投資していることになる。
この投資手法には、市場の効率性や投資家の多様なニーズに対応する一方で、企業が不正行為をしても、インデックス投資の“買い支え”によって、その企業価値が必ずしも大きく下がらないという批判もある。
インデックス投資が盛んになると、その構成銘柄である限り、個別企業の業績や倫理的問題が投資決定にさほど影響を与えなくなる。インデックスファンドは、インデックスに含まれる銘柄を市場の比率に応じて自動的に購入するため、個別企業の不正が発覚しても、その企業を特別に避けることができないからだ。結果として、不正を行った企業の株価が、個別投資家の売買による影響を受けにくくなることが指摘されている。
この主張は、市場におけるモラルハザードを引き起こす可能性があるという点で一定の正当性があるといえる。また、企業が不正行為をしても実際に大きな影響がトヨタグループ各社に出ていないことからも企業経営者には不正行為の抑止力が弱まるデメリットが発現する面もある。そして、個別企業の経営努力や透明性の向上が株価に反映されにくくなり、経済全体の健全性に悪影響を与える可能性も否定できない。
ただし、インデックス投資の普及が企業の不正行為を完全に容認する環境を作っているというわけでもない。市場ではインデックス投資以外にも、アクティブファンドや信用取引など、それぞれが相互に影響を与え合っている。
不正行為が発覚した企業に対しては、規制当局による罰則や、消費者の信頼喪失といった市場外の事象も株価に大きく作用する。それが業績悪化につながれば、最終的な企業価値は適正なものに収束していくことになるだろう。
目下堅調なトヨタグループ各社の株価も、今回の問題に適切に対処できず、信頼回復が伴わなければ下落に転じるリスクも非常に大きい。トヨタグループのようなグローバル企業が直面する課題は複雑で、その解決には組織全体の取り組みが必要だ。
また、トヨタグループのような大企業の行動は、日本経済にとっても国際競争力や産業の将来に直結する。不正問題を克服し、持続可能な成長を遂げるための取り組みは、日本経済全体にとっても重要な意味を持つ。トヨタグループのみならず、日本政府の対応などにも注目が集まる。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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