障害者雇用率、4月引き上げ 無理な採用が招く危険とは:働き方の見取り図(2/4 ページ)
法定雇用率が2024年4月から引き上げられる。障害者採用に取り組む会社は増えていきそうだが、会社が法定雇用率を追い続けることで、障害者雇用は本当に望ましい形で促進されるのか。
無理な採用が招く危険
もう1つは、障害特性への対応可否だけで仕事を選ぶわけではないことです。これは障害の有無に関係なく全ての求職者に共通することですが、仕事を選ぶ際には通勤距離や就きたい職種、仕事のやりがい、柔軟な働き方、給与など、他にもさまざまな希望条件を考慮します。これらの希望もまた、1.6人に1件という数字には反映されていません。
障害がある求職者にとって、求人は絶対数が根本的に大きく不足しているのです。ただ、障害がある求職者が、障害者専用求人にしか応募できないわけではありません。障害者専用求人以外の仕事も含めれば、可能性は一気に広がります。
多様な人材が能力を発揮できる環境整備を進めるダイバーシティ&インクルージョン(D&I)や障害の有無にかかわらず同じように活動できる社会を目指すノーマライゼーションなどの観点からすると、障害者専用求人以外の仕事に誰もが就ける状態こそ本来の望ましいあり方です。
しかし残念ながら、そんな環境が整っている会社は、いまのところほとんどありません。それを「ノーマライゼーションでなければならない」と理念だけが先走り、環境が整わないまま無理に就労を促すようなことをしてしまうと危険です。
障害者に過度な負荷がかかったり、傷つくような思いをして退職せざるを得なくなってしまったり、職場側もどう対処してよいか分からず戸惑ってしまうなど、双方がつらい思いをして自信を喪失するようなことになりかねません。
厚労省がまとめている「障害者への合理的配慮好事例集」には、視覚障害がある社員のために拡大読書器を購入し、紙文書の読み上げなどを行う介助者を隣席に配置したり、精神障害や発達障害がある社員の業務内容を見直し、いつでも相談を受けられるよう声がけしたりするといった、職場で行われているさまざまな事例が掲載されています。
そこで説かれているのは、働き手が職場に合わせるのではなく、個々の障害に合わせて職場側がきめ細やかに対応できるようにする環境整備の必要性です。障害者を受け入れたことのない会社にとって、これらの環境整備は大きなハードルとなります。障害がない人ありきで構築された職場環境を根本から作り変えることが必要です。
厚労省の令和5年障害者雇用状況の集計結果によると、現法定雇用率2.3%が未達成の民間企業は49.9%とほぼ半数。そのうち、障害者の雇用実績が0人の会社は58.6%に及びます。これら初めて障害者を雇用しようとする会社にとっては、ノーマライゼーションどころか障害者専用の求人を出すことさえ大変なことです。
ところが、法定雇用率は4月から引き上げられ、これまで対象外の規模だった会社にまで適用されることになります。これらの状況に鑑みると、まずは初めて障害者雇用に取り組む会社が環境を整えられるようしっかりとサポートしなければ、無理な採用を進めてしまう職場が新たに生まれ、働き手も職場もつらい思いをしてしまうような事態が増えかねません。
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