DeNA「276億円減損」で赤字 “膿出し”は成功するのか:古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)
DeNAのゲーム事業の不振が、2024年3月期の第3四半期決算で明らかになった。276億円もの大幅減損が発生し、通期で赤字に転落する見通しだ。
DeNAのゲーム事業の不振が、2024年3月期の第3四半期決算で明らかになった。
276億円もの大幅減損が発生し、通期で赤字に転落する見通しだ。減損損失の大部分はゲーム事業におけるソフトウェア資産と、Vtuber配信アプリケーション「IRIAM」のブランド部分(のれん)の損失認識となっている。
DeNAの23年度の純利益が88億円程度であることを鑑みると、これを巨額減損と呼ぶことに違和感はない。ゲーム事業が長期にわたって停滞を続けており、収益効率も低下している中での赤字転落は投資家にとって大きな不安材料となった。
しかし、巨額の減損は、同社にとって懸念材料にはなり得ないと筆者は考える。それは、サイバーエージェントやあおぞら銀行など、近年の有名企業における巨額の減損処理の事例を見れば明らかだ。
276億円の大幅減損──DeNAの赤字転落をどう見るか
サイバーエージェントは24年9月期の第1四半期決算において、同社が買収した不動産会社「リアルゲイト」の減損損失で33億7600万円を計上したことが響き、赤字に転落した。また、あおぞら銀行についても米国不動産に関するローンの貸倒引当金を積み増した結果、24年度の純利益予想が240億円の黒字から280億円の赤字まで転落し、株価を一時的に大きく下落させた。
減損とは、資産の帳簿価値がその回収可能額を上回る場合に、その差額を損失として計上する会計上の処理を指す。減損が純粋な資産に対する回収可能性の低下によって発生するのと同じように、貸倒引当金の積み増しは、債権の回収可能性の低下によって赤字が増加する。
このような減損や貸倒引当金の積み増しが発生することは、企業の業績や先行きにとってマイナスのイメージを持たれがちだ。しかし、実際にはそうとも限らない。むしろ、似た状況にありながら減損をしていない会社のほうが危険である理由を説明する。
「減損」のメリット
企業は減損処理を行うことで、資産の価値を現在の市場価値に即して評価し直せる。これは、企業が現実の経済状況に応じて柔軟に対応している証拠であり、投資家にとっては透明性が高く信頼性のある情報となり得る。
また、資産を正しく評価し直すことで、将来にわたってその資産から得られる収益の過大期待を避けることにつながり、現実的な事業計画を立てられるようになる。
そして、減損を適切に行うことで、不採算事業や価値の下がった資産から早期に手を引く決断は、長期的な視点から見れば企業価値の向上につながるメリットもある。短期的なマイナス金額の大きさだけにこだわってしまうと「膿出し」の重要性を見失ってしまう可能性があるのだ。
それでは、サイバーエージェントの減損・赤字転落後、同社の業績や株価はどのように推移したのか。同社の株価は減損、赤字が続いた23年度下半期で株価の底値を形成し、現在では30%以上、株価を上昇させている。
また、あおぞら銀行の事例についても、市場の不安がピークに達した2月16日に2022円の底値をつけたが、同29日時点で30%以上高い2700円台で推移している。旧村上ファンドの大量保有も一因と思われるが、本当に危ない企業であればそのような市場参加者も手を出さない。
貸倒引当金増額についても、市場がこれらの損失を一時的なものと捉え、銀行の長期的な財務健全性には依然として信頼を置いていると見られる。
あおぞら銀行は、自己資本比率や流動性比率などの財務健全性が高い水準を維持しており、これが投資家の信頼を得る一因となっている。さらに、株価の下落により配当利回りが10%を超える水準になったことが、魅力的な買い戻しの機会となった。
米国不動産に力を入れている事業者が、日本で唯一あおぞら銀行のみということはないだろう。先陣を切って貸倒引当金を積み増した同社の機動的な経営判断は、スピーディーな意思決定と健全な経営姿勢に支えられたものだと言える。
このように、減損処理は短期的なインパクトこそ大きいが、減損せずにだらだらと回収不可能な事業を運営するのではなく、即座に処理することでその後の業績や株価の回復が早まっている点には注目すべきだろう。
サイバーエージェントの事例では、赤字要因が不動産会社の減損であるにもかかわらず、スマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」の不調や「ABEMA」の赤字が大きくクローズアップされる形となっていた。
DeNAについても2月28日にはポケモンカードのスマホアプリ版をリリースすると発表し、減損による株価の下げ幅をほとんど戻し切っている。カードゲームのデジタル化は、サイゲームスの「シャドウバース」を皮切りに、KONAMIの「遊戯王マスターデュエル」など、盛り上がりを見せている分野だ。
そんなタイミングで限られた経営資源を有効に活用すべく、既存事業の減損に踏み切ったDeNA経営陣の判断は、サイバーエージェントやあおぞら銀行などの例に漏れず適切な判断だったと考えられる。
関連記事
- “時代の寵児”から転落──ワークマンとスノーピークは、なぜ今になって絶不調なのか
日経平均株価が史上最高値の更新を目前に控える中、ここ数年で注目を浴びた企業の不調が目立つようになっている。数年前は絶好調だったワークマンとスノーピークが、不調に転じてしまったのはなぜなのか。 - 不正発覚しても、なぜトヨタの株は暴落しないのか
2024年に入って、トヨタグループ各社で不祥事が発覚し、その信頼性が揺らぐ事態を招いている。世界的な自動車グループの不正といえば、15年に発覚したドイツのフォルクスワーゲン社による排ガス不正問題が記憶に新しいが、トヨタグループは比較的、株価に影響がないようだ。なぜこのような差が生まれているのか、 - 「バブル超え」なるか 日経平均“34年ぶり高値”を市場が歓迎できないワケ
日経平均株価が3万5000円に達し、バブル経済後の最高値を連続で更新し続けている。バブル期の史上最高値超えも射程圏内に入ってきたが、ここまで株価が高くなっている点について懸念の声も小さくない。 - ブックオフ、まさかの「V字回復」 本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ?
ブックオフは2000年代前半は積極出店によって大きな成長が続いたものの、10年代に入って以降はメルカリなどオンラインでのリユース事業が成長した影響を受け、業績は停滞していました。しかしながら、10年代の後半から、業績は再び成長を見せ始めています。古書を含む本はどんどん売れなくなっているのに、なぜ再成長しているのでしょうか。 - 孫正義氏の「人生の汚点」 WeWorkに100億ドル投資の「判断ミス」はなぜ起きたか
世界各地でシェアオフィスを提供するWeWork。ソフトバンクグループの孫正義氏は計100億ドルほどを投じたが、相次ぐ不祥事と無謀なビジネスモデルによって、同社の経営は風前のともしび状態だ。孫氏自身も「人生の汚点」と語る判断ミスはなぜ起きたのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.