福岡銀行の事例をモデルケースに?
金融機関の多くは、全ての預金を同時に払い戻すことができない構造を持っている。これは、預金された資金が長期の融資や投資に使用されているため、短期間で大量の資金を用意することが困難だからだ。従って、取り付け騒ぎが発生すると、金融機関は流動性危機に直面し、最悪の場合、破綻に至ることがある。
SNSやインターネットの普及により、取り付け騒ぎの恐ろしさは一層大きくなっている。不安やうわさは瞬時に広まるだけでなく、いつ・どこで発生するか予測が難しくなった。そのため、対処が遅れると状況は一層悪化してしまう。
最悪の場合、一つの金融機関での問題が他の機関への信用収縮を引き起こし、広範な金融不安を生み出すこともあり得る。これにより、経済全体に深刻な影響を及ぼすことがあり、経済危機につながることもある。取り付け騒ぎの予防と、万が一発生した場合には迅速に対処することが極めて重要なのだ。
「デマを信じないように」だけでは効果が薄い
取り付け騒ぎは、本質的に大衆の不安によって引き起こされる。従って、「デマを信じないように」という呼びかけはその防止にあまり効果がない。
多くの人が「自分はデマを信じないが、他の人がデマを信じて銀行が潰れたら不安だから、一応現金を引き出しておこう」という行動を取るからだ。たとえ誰一人としてデマを信じていなくても、取り付け騒ぎは起きるのである。
ではどうすればよいか。この点は、政府側の対応にも委ねられるだろう。
まずは預金保険制度の拡充や周知にある。預金者が自己の資金を失うリスクを軽減するため、政府は預金保険制度を設け、一定額までの預金を保証している。
普通預金の場合、金融機関が破綻した際にも、元本1000万円と利息は保証される。当座預金といった無利息口座であれば、1000万円を超えても全額が保証される。預金の額が相当に大きくなければ、少なくともお金が失われるという動機でATMや窓口に殺到する必要性はない。
現金をたくさん保有している者については、数十の銀行口座を作るのではなく、微々たる預金利息を放棄するかわりに、当座預金でキャッシュの保全を図るという選択肢もある。
また、このような制度の存在や活用法といったリテラシーの向上と正確な情報提供も欠かせない。
その仕組みを緩和し、不当なうわさやデマに基づくパニックを防ぐためには、仕組みとしてお金が失われることがないという制度を設け、十分に周知することが重要なのである。
福岡銀行の事例から学べる最大の教訓は、危機管理において透明性と迅速性が、いかに重要であるかということだ。
デマや誤情報に対する即座の反応と正確な情報の提供は、一見オーバーにも映るかもしれないが、顧客の不安を和らげ、信頼を維持するために不可欠な対応であった。また、この対応はモデルケースとして、他の金融機関が類似の状況に直面した際の参考になるだろう。
なお、デマの拡散による法的責任は避けられない。虚偽情報の発信者だけでなく、それをリポストしたり、知り合いに共有した人も、信用毀損や業務妨害などの責任を問われる可能性があることにも注意しておきたい。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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