それでも円安は続くのか 日銀「17年ぶり利上げ」の影響は:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)
2024年3月19日、日本銀行は長期にわたる異例の金融緩和策に大幅な修正を加える“利上げ”に踏み切った。日銀の植田総裁は、2%の物価安定目標が持続的かつ安定的に実現していく見通しや、着実な賃上げ基調を材料に黒田前日銀総裁の導入したマイナス金利政策から脱却したのである。
それでも円安は続く?
さて、利上げと聞いて次に気になるのが為替レートではないだろうか。
通常、日銀の利上げは通貨価値の上昇、つまり円高を促すとされている。しかし、日本円が利上げしているにもかかわらず円安は止まる気配をみせない。むしろ、少し前の1ドル140円台から1ドル150円の大台を再び超える円安傾向を続けており、利上げ前よりも円安のテンポが加速している点に注意したい。
そもそも、為替レートとは、特に主要取引相手国の通貨との相対的な価値によって決まる。日本が利上げを行ったとしても、米国をはじめとした他国の金利がより高い場合は、日本円に興味が移る可能性は低い。
日本の長期金利は0.744%で推移している裏で、米国の長期金利は4.271%もつく。これでは、国際的に見て低い金利の日本円で資金を調達して、金利の高い米ドルで運用するというキャリートレードの動きに大きな変化は訪れないだろう。
従って、日銀の利上げをきっかけにグローバル展開を縮小して日本市場の開拓に舵を切ることは、今後も継続するとみられる円安による業績の追い風効果を失いかねないという点で悪手である可能性が高い。
日本はエネルギー資源を大量に輸入する国であり、原油価格の上昇は貿易収支に大きな影響を与える。貿易収支が赤字になると、円の供給が増え、その価値が下がる可能性がある。従って、世界的なエネルギー価格の動向や、それに伴う貿易収支の変化も、円安を促す要因となり得る。
また、特殊な例としては新NISAを円安の要因ではないかと見る声もある。投資額のうち、相当額がS&P500や全世界株式インデックスに流入していることを踏まえると、国内の投資家も「日本円を売って、外国の株を買う」という円安方向の判断を行っていると考えられる。
日銀の資金循環統計によれば日本の預金は1000兆円を超える。仮にその10分の1でも外国の金融商品に流れれば、個人手動で100兆円規模の円売りを控えることにもなりかねない。
今後、日銀は金利政策の正常化に一層注力し、バランスシート政策の本格的な正常化に着手するのは2025年後半以降になるとみられる。それまでは、利上げしたからといって直ちに円高になる可能性は低い。
日本銀行が金融政策の正常化を進める上での最大の課題は、政策変更の過程で市場の信頼を維持し、経済活動への不確実性を最小限に抑えることだ。
政策の透明性と予測可能性を高め、市場参加者や国民に対して政策の意図や将来の方向性を明確に伝わるには相当な時間を要するとみられるため、今後のビジネス環境の変化は現状維持ないしは緩やかな引き締め程度だと考えられる。
企業は焦って円高対策に舵切りするのではなく、しばらくは日銀の政策の動向を確認するにとどめるとよいだろう。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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