自動車記事を書く時の3つのポイント:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
今回のお題は「自動車記事の書き方」。批判をする時は真剣な愛か怒りを持ってすべし。面白がってやらない。自分を立てるために書かない。そういう大方針の上に、一応の手順というのがある。基本形としては、自分がクルマの試乗に行く時の時系列を順に文字化していけばいい。
が、Webは違う
というのが、紙媒体の時代の基本系だ。ベース技術としては変わらないのだが、昨今のようにWebだと少し話が違ってくる。雑誌はすでにお金を出して買っているので、最後まで読んでもらえるのが当たり前だが、Webは違う。読者が途中で飽きたら離脱してしまう。
勝負は3回ある。まずは冒頭の掴(つか)みだ。ここで読みたい気持ちにさせることが一番大事。最近書いた中でいえば、『なぜ今、ロードスターがアップデート? そして990Sが消失したワケ』が一番分かりやすい。
2015年のデビューなのでほぼ9年が経過したマツダ・ロードスターが大幅なアップデートを受けた。と聞いたら、普通はいくつか疑問が出るだろう。
- なんで9年も経ってからビッグマイナーチェンジをするの?
- ということは次期ロードスターはいったい、いつ出るの?
- 何がどう変わったの?
といったあたりだろうか。
ここで「この先でこういう話の答えが書いてありますよ。と予告して、知りたければ先を読むしかない形を作っている。今回の記事のようにタイトルに「3つのポイント」と掲げて、好奇心を煽(あお)るやり方もある。
逆にGRヤリスについて書いた『ラリーで鍛えたらどうなったのか “真顔”のアップデートを遂げたGRヤリス』はごくプレーンに対決の構図から書き出している。ここでの構図は「新基軸VS.従来のクルマづくり」である。
GRヤリスといえば「モータースポーツからのクルマづくり」というトヨタの新機軸でデビューしたクルマだ。ラリー車になった時のリヤウィングへの風の当たり方を考慮して市販車のルーフラインを決めるといった、従来あり得なかった作り方で設計されている。
このあたりは、記事に対するある種感覚的なものだが、インパクトを盛りたい時には、冒頭を強くする仕掛けを組む。この記事にはそれがいるかいらないかは、定量的な話ではないので感覚的見積もりとしか言いようがない。
ただしインパクトを強める方法はなんでもいいのだ。例えば書き出しが「なんだこのクルマは!」でもいいし、「いやこれは筆者の大失態である」でも「すごいクルマを作ったものだ」でもいい。掴む手段はいくらでもある。
ただそれをやるには時系列の試乗レポートの一番キャッチーな部分を倒置して前に持ってこなくてはならない。その建て付け能力がないと難しい。そこはたぶん文章力を磨くしかないんだと思うが、いろいろやっているうちに手札が増えてくるはずだ。
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