「シーチキン 虫混入動画」で会社側が訴えても、逆にリスクになってしまう理由:スピン経済の歩き方(5/7 ページ)
シーチキンに虫が購入していたとする動画について、「はごろもフーズ」側が不可解な点があると指摘。SNS上では投稿者へ謝罪を求める声が上がっている。もし虚偽の動画だった場合、メーカー側は信用毀損(きそん)で訴えるべきなのか。
過去「くら寿司」に広がってしまった「負け」イメージ
その代表が、「くら寿司」だ。
覚えている方も多いだろうが、同社はかつて「無添 くら寿司」という屋号だった。創業以来取り組んでいる「四大添加物の不使用」という方針からだ。だが、この屋号についてネット掲示板に「何が無添なのか書かれていない」「イカサマくさい」などと叩く人がいて、会社側は大激怒。個人情報開示を巡る訴えを起こしたが、敗れてしまった。
この「負け」のイメージが広がったことで、ネットやSNSでは「無添というのがイカサマだという主張を裁判所が認めた」と拡大解釈をする人々が続出し、同社が大切にしている「四大添加物」まで否定的に見る人々が増えてしまった。その後、看板から「無添」が消えたことからも何をか言わんやであろう。
こうした訴訟のシビアな現実を踏まえれば、はごろもフーズが今回の動画投稿者を訴えないほうが「得策」なのは明らかだ。
まず裁判をすれば今、「野菜に付いていた虫でしょ」で終わっているこの話が蒸し返されて、全国ニュースで大きく取り上げられる。場合によっては、あのショッキングな動画も公共の電波で放映される。普段SNSを見ない、今回の騒動を知らなかった人々にも知らせることとなり、「ええ、そんな話があったの? 気持ち悪い」と事実関係そっちのけで言葉の響きだけでシーチキンを敬遠する恐れもある。
そこに加えて、はごろもフーズ側のこれまでの対応も法廷で全て明らかにされる。分かりやすいのは、2016年にやはりシーチキンにゴキブリが混入していた騒動だ。このとき、はごろもフーズ側は「公表しない」方針で、異物混入の詳細に関する情報を一切出さなかった。しかし、後になってシーチキンの製造を委託していた下請け工場を訴えたことで、それが全て白日の元に晒(さら)された。
本件を報じた『デイリー新潮』(22年11月)には当初、はごろもフーズの担当者が販売をしたスーパー側に対して、「検査結果が出ておらず、まだ開封後に虫が飛び込んだ可能性も否定できない」と説明していた。しかし怪しいと感じたスーパー側が詰め寄ると説明を翻して、「実は、検査結果は出ています。検査結果では、開封前にゴキブリが入ったものと判断できます」と言ったことや、「今回の事故の責任は、弊社ではなく製造した下請会社にあります」と露骨な責任逃れをしていたことなどが、公判資料に記されていた、と報じている。
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