「高級おにぎり」ブームは必然か? イノベーター理論に当てはめて考える:グッドパッチとUXの話をしようか(1/2 ページ)
昨今の「高級おにぎり」ブームは必然なのか? 新しい商品・サービスが市場に浸透する流れを示した「イノベーター理論」に当てはめて考えてみる。
連載:グッドパッチとUXの話をしようか
「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
今、「高級おにぎり」がちょっとしたブームになっていることを、皆さんはご存じでしょうか。
2023年版の「惣菜白書」によると、総菜市場は2年連続でプラス成長。カテゴリ別にみると、おにぎりを含む米飯類は市場全体の約45%を占めており、堅調な伸びをみせています。
日経トレンディが発表した「2023年ヒット商品」では21位に「ぼんご系おにぎり」がランクインしました。「ぼんご」とは、1960年に開店した都内のおにぎり専門店。具材が大きく、ふっくらとした、あったかいおにぎりがウリで、休日には数時間待ちの行列ができるほどの人気店です。
コンビニ各社の動きも活発です。セブン-イレブンは、京都の老舗米問屋とコラボしたおにぎりを販売。ローソンは200円以上する「金しゃりおにぎり」の握り方を一新し、ご飯をふっくらさせました。ファミリーマートも同様に「手巻きおむすび」をリニューアルして、ご飯をふっくら化。具材が大きく少し値が張るラインアップは以前からありましたが、これらの動きは全て2023年のことです。
しかしながらどうして今、高級おにぎりがブームになっているのでしょう……?
複合的な要因ではありますが、このブームはいわゆる「大手小売のマーケティング戦略」にとどまらない面白さがあるようです。それは「専門店のおにぎりが、コンビニにも影響を与えた」という、ユーザー主導で発生したものであるということです。
それは一体どういうことか。今回は高級おにぎり人気の理由を「イノベーター理論」を参照しながら考えてみましょう。
イノベーター理論は「新商品」以外も当てはまる
イノベーター理論とは、新しい商品やサービスがどのように市場に普及するのかを示したものです。
まずは、特定のカテゴリに対する関心が高い「イノベーター」が利用したものを「アーリーアダプター」であるインフルエンサーが拡散し、その影響を受ける「アーリーマジョリティ」が採用することで世の中に普及していく……というのが、大まかな流れです。
分かりやすい具体例として、ハイブリッドカーがあります。1990年代後半に、その未来感や先進性に引かれて初代プリウスを購入した人がイノベーターだとすれば、2000年代に、燃費などの実用面にも魅力を感じて購入した人がアーリーアダプター。当たり前の選択肢になった今は、アーリーマジョリティに達したといえます。22年の乗用車におけるハイブリッドカーの販売比率は49%なので、上図の採用者数に照らしても妥当です。
このイノベーター理論は、決して先進的なものや新しい商品だけに当てはまるわけではありません。
例えば今、1970〜80年代シティポップのリバイバルブームが起きているのはご存じでしょうか。YouTubeで配信されている竹内まりやさんのMV『Plastic Love』のコメント欄の盛り上がりを見れば、その雰囲気を感じられるかと思います。
このリバイバルブームは、海外の音楽フリークが、楽曲配信サービスなどを通じて日本のシティポップに出合ったことから始まっています。その人こそがイノベーターですが、本来イノベーターは「広めたい」というスタンスではありません。次の段階であるアーリーアダプターがその魅力に気づき、インフルエンサーとして発信をしたからこそ、今日のブームは起きています。
さて、このようなシティポップの売れ方は、高級おにぎりに似ていると思いませんか?
「ぼんご」は決して新しい店ではなく、ずっと常連さんに愛され続けてきたところに、口コミやメディアの露出などが加わり、多くの人に見つかりました。他ではなかなかお目にかかれない「ふっくら」「具材が大きい」「あったかい」おにぎりは、特別感をもって迎えられ、さらにコンビニが追随したことにより、高級おにぎりは一大ブームに。
これはまさに、「常連さんというイノベーター」「インフルエンサーとしてのアーリーアダプター」「当たり前のようにコンビニで購入するアーリーマジョリティ」という流れです。
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