物流2024年問題で叫ばれる「多重下請撤廃」 それでも“水屋”がなくならないワケ:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
物流の「2024年問題」がいよいよ本格化していく。全日本トラック協会が「多重下請構造」について「2次下請までと制限すべき」と提言しているが、筆者はそう簡単になくならないと考えている。なぜかというと……。
戦前から社会問題に
実は日本人は「国家有事」の最中、多くの人が貧しい暮らしを余儀なくされていた時代でさえも「多重下請構造」を死守していたという動かし難い事実がある。例えば日中戦争が始まった1937年、軍需工場の仕事が急激に増えたが、実はそれを軍隊や政府から受注していたのは「ブローカー」と呼ばれる人々だった。
彼らが下請けの業者に依頼、さらにそこから孫請けの家族経営の小さな町工場へという「多重下請構造」が当時もあった。だから当然、今と同じ問題が起きる。
『読売新聞』の1937年1月22日付記事「中間搾取を排して下請業へ直接註文 市産業局 統制に乗り出す」では、軍需景気のわりに末端の労働者にまともに賃金が払われず、彼らの家族が生活苦に陥るという問題や、責任の所在があやふやになるので納期も守られない「多重下請」の弊害が指摘されている。
事態を重く見た東京市産業局は、陸海軍や政府から「下請業統制委員」を選出。8万5000以上いる下請け業者に直接注文を試みたが結局、戦争の激化もあっていつの間にかたち消えた。
また戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が頭を痛めたのも「多重下請構造」だ。当時、復興の建設現場や運送業界では「労働親方」と呼ばれる人々がたくさんいた。彼らは「親方」として仕事を請け負い、労働者に仕事をあっせんするが、そこで適正な価格を払わず法外なピンハネをするのだ。
なぜそんな所業ができるのかとあきれるだろうが、実はこの「労働親方」も、仕事の話をもってきた誰かにピンハネをされている。つまり、発注先企業と末端の労働者の間に何人もの「労働親方」が存在して、みんながちょこちょこ上前をはねて末端の労働者はスズメの涙程度しか賃金がもらえないという「中間搾取ピラッミッド」ともいう構造なのだ。GHQの担当者は、この「労働親方」を日本の悪しき慣習として、記者たちに対して以下のように厳しく糾弾している。
「この“労働親方”は労働者を踏み台として政治的権力を握ろうとしてゐる、しかももっとも憎むべきは労働親方は表面は一般から尊敬されるように隠匿してゐることである。かうした“親方制”は土木建築などの屋外労働に多いが、どしどし暴露して明朗化しなければならぬ」(『読売新聞』 1946年5月18日)
この後、労働親方は全国で摘発され、搾取されていた労働者60万人ほどを解放したというニュースも流れたが、GHQが去った後は、この「労働親方」問題は社会からパタリと消えている。
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