ITエンジニアが足りず「メカエンジニアを職種転換」 成功のポイントとは?
IT人材の不足は特に甚だしく、採用は困難を極めます。ある製造業の企業もITエンジニアの採用に難航していましたが、メカエンジニアを対象としたリスキリング施策で対応しました。全く異なる業務に転換を進めるポイントとは?
多くの企業が人手不足という課題に直面する中、IT人材の不足は特に甚だしく、採用は困難を極めます。
ある製造業の企業もITエンジニアの採用に難航していましたが、メカエンジニアを対象としたリスキリング施策で対応しました。全く異なる業務に転換を進めるポイントとは? パーソルイノベーション、リロクラブ、otonohaが共催したセミナー「人材確保×職場定着 強い組織をつくる人事戦略」より、パーソルイノベーションの柿内秀賢氏(「Reskilling Camp」事業責任者)の講演の様子をリアルにお届けします(以下、発言は柿内氏)。
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ITエンジニア不足に「リスキリング」で対応
人材育成の事例を用いながらお話ができたらと思います。これはメカのエンジニアからアプリケーションエンジニアへのリスキリング事例です。製造業以外の方々におかれましては、少し皆様の業界に置き換えて、別の職種からもっと人を増やしていきたい職種に転換してもらうことをイメージしていただくと良いかなと思います。
この事例におきましては、アプリケーションエンジニアを採用したいけど足りないと。会社としても関連の製品が増えてきていて、その人材の拡大・獲得が大きなテーマとしてありますが、なかなかうまくいかない。一方でメカエンジニアは、従来たくさん社内にいて、育成もしてきている。そんな中で、アプリのエンジニアに職種転換してもらおうじゃないかという取り組みです。
事業の変化に伴い、職種転換の必要が発生
会社として市場ニーズが変化していく中で、機械メーカーとして事業を展開していたが、ソフトウェアに関する製品やサービスに軸足をどんどん移していった。
競争力の源泉が移っていき、毎年の売り上げの事業計画を作成するときに、ソフトウェアの比重が高まってきているということを痛切に感じていました。そしてこのIT分野の採用競争が激しいということもあって、なかなかIT業界ではない立場からIT人材を採用すること自体がかなり難しい。
採用したとしても、会社のカルチャーにちゃんと染まってもらえるんだろうか。反発をしてしまって扱いにくいと感じてしまわないか、社員にとっても働きにくいと感じてしまうことにならないか。また、自社のビジネス業務を理解するにも時間がかかる。こういった課題があります。
人材育成していきたい中で、過去にも配置転換を行ったが、なかなかうまくいかない。現場に任せているだけでは人材の育成、戦力化についてはなかなかに難しいということもあって、急激に変わる市場の環境、人材獲得の問題、教育の問題の中でどうしていこうかと。
それに対してこのリスキリングの取り組みを進めたわけです。
現場も忙しく、教育の余裕がない……それでも実現させるための工夫
まとめますと、メカからアプリの部署に異動していくわけですので、異動先の現場である程度の仕事をやってくれるレベルまで、教育していかなければならない。図面を引いていた方々が、Javaなどのプログラミングを使って実際にソースコードを書く、あるいは今あるソースコードを修正する。バグを見つけて改善する。そういった手法に切り替えていかなきゃならない。
それを忙しい現場が手取り足取り教えてる余裕が全くないということと、座学を受けても、現場に行って結局「分かりません」であれば、もう駄目ですよね。そこである程度現場実践に近い形で、ソースコードを数千行、数万行を書く実地訓練をやり、手を動かしてとにかく課題に対してソースコードを書く。書いたソースコードの修正には、テクニカルコーチが伴走しながら初心者を一定レベルまで引き上げていくと。
コーチングによって動機付けをしながら職種転換を図り、そして最後にオンボーディング。OFF-JTからいきなりOJTにポンと渡してしまっても、現場としてなかなか受け止められないこともあります。ちゃんとマインドセットした上で、異動先の部署とうまくやっていけるような環境を作りながら、オンボーディングをしていく。組織の定着を考慮しながら進めていく。そんな取り組みを行っています。
これによって、外部の人材を採用するときに、採用の人数も質も時期も全く計画が立たなかった状態から、いつまでにどれぐらいのレベルの方が何人獲得できるのかを計画的に把握できる。これは会社にとって、事業の計画上かなり大きな武器になる。そしてそれが1人うまくいけば2人、3人とどんどんうまくいく。
キャリアの多様性を作り、エンゲージメントを高める
新しいキャリアの構築のパターンを社内で確立することによって、キャリアの歩み方の多様性に応えていく。そうして、今脈々と、何年も継続して行う取り組みに進化していっているわけです。
このようにリスキリングは、必要な人材を確保し、スキルアップする目的もありますし、人材のキャリアの多様性を考えることでもあります。そういった取り組みを通じて、この会社で働き続けたというエンゲージメントを高めていく狙いもある。
こうして会社が強くなっていく取り組みが、リスキリング事例としてありました。
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