伊藤忠「フレックス制をやめて朝型勤務に」 それから10年で起きた変化:【中編】徹底リサーチ! 伊藤忠商事の人的資本経営(1/2 ページ)
2013年にフレックス制度を廃止し、朝型勤務制度や朝食の無料提供の取り組みを始めた伊藤忠商事。それから約10年が経過したが、どのような変化が起きているのか。
連載:徹底リサーチ! あの会社の人的資本経営
近年、注目される機会が増えた「人的資本経営」というキーワード。しかし、まだまだ実践フェーズに到達している企業は多くない。そんな中、先進的な取り組みを実施している企業へのインタビューを通して、人的資本経営の本質に迫る。インタビュアーは人事業務や法制度改正などの研究を行う、Works Human Intelligence総研リサーチ、奈良和正氏。
「厳しくとも働きがいのある会社」という人材戦略を掲げ、大手総合商社の中でも単体従業員数は最少という状況下で、労働生産性を着実に向上させてきた伊藤忠商事。
同社の人材戦略や働き方改革に関する取り組みを人事・総務部 企画統轄室長岩田憲司氏にインタビュー。インタビュアーは人事業務や法制度改正などの研究を行うWorks Human Intelligence総研リサーチの奈良和正氏が務めた。前編では、伊藤忠商事が人事制度変革の“失敗”を経てどのように変わったのか紹介した。
前編はコチラ
中編となる今回では、伊藤忠商事の働き方改革基本方針や、それを支える人事制度について取り上げる。同社が取り組む働き方改革の中身とは。また2013年にフレックス制度を廃止し、朝型勤務制度や朝食の無料提供の取り組みを始めたのには、どのような背景があったのか。それから約10年が経過したが、どのような変化が起きているのか。
「競合より社員が少ない」からこその働き方改革
奈良: まずは、00年ごろの失敗を踏まえて10年から着手された働き方改革推進における当時の基本方針のようなものがありましたらご紹介いただけないでしょうか。
岩田: はい。働き方改革で目指したのは、(1)社員一人ひとりが他商社よりも力を発揮できること(2)目指す姿勢を「厳しくとも働きがいのある会社」とすること(3)成果を挙げて社員を含む全てのステークホルダーに還元していくこと(4)定量的な目標を「労働生産性」とすること(5)「三方よし」にのっとった改革とすること、の5つがあります。
先ほど(前編)申し上げました通り、他商社と比べて従業員数が少ないこともあり、(2)目指す姿勢を「厳しくとも働きがいのある会社とすること」は、当社独特の目標だと思っています。
創意工夫が必要ですし、一人一人が頑張って力を発揮しなければなりませんが、一方で頑張った分は給与で還元します。
例えば海外の都市に行っても、駐在員の数は(競合他社に比べて)少ないんですよね。でもやることはおおよそ一緒なので、見方を変えれば若手中堅でも責任ある仕事、あるいは高い役職に早く就けるということです。
奈良: 他の人事施策でも(2)目指す姿勢を「厳しくとも働きがいのある会社とすること」の要素は反映されていそうですね。
岩田: そうですね。当社は職務職責に応じた成果を測定、フィードバックし、それの結果を基に評価するという成果主義ではあるので、評価もメリハリがつきやすくなると思います。
当たり前ですが働きがいの観点では頑張れば評価されますし、厳しさの観点では頑張らなかったら降格もあります。
奈良: ありがとうございます。(3)成果を挙げて社員を含む全てのステークホルダーに還元していくことは、伊藤忠商事さんが掲げられている「三方よし」という理念に通ずるところがありそうですね。
岩田: 仰る通りで。「三方よし」は近江商人から出てきた言葉で、売り手よし買い手よし世間よしと、従業員やお客様、関係する方全員に還元していくということです。
(4)は定量的な目標を「労働生産性」とすることを掲げており、やはり人材戦略をステークホルダーにご説明する上で必要だろうと。
計算式は非常にシンプルで連結純利益を、当社単体の人数で割っています。これも会計的には連結ベースで割ればいいなどさまざまな議論があるのですが、感覚的には一番シンプルで分かりやすいのでこの計算方法にしています。
(5)は先ほど申し上げた通りで、「三方よし」にならった改革をということです。
奈良: ありがとうございます。当時の改革方針がよく分かりました。これが今にもつながってくるんですね。
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