「マーケを学んだが、実践で使えない」 不足する“リアリティー”を磨く生活習慣術:トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(2/3 ページ)
マーケティングの基礎学習を重ねても、「なぜか実践で使えない」という事態に陥ることはよくある。その理由は「リアリティーの不足」にある。リアリティーを磨くために日常でできる習慣を紹介する。
知らないものは見えない
リアリティーが重要という話をすると、「書を捨て、町に出よ」(教科書ばっかり勉強していても意味がないから、勉強はほどほどにして実社会を観察しろ)ということですね? と誤解する人がいます。断言しますが、そうではありません。
例えば、マーケティングの教科書を学んでいない人が単に街で買い物をしていても、「あの店は流行っているな」「いまは◯◯が売れているんだな」「◯◯という新商品が並んでいた」くらいのことしか見えません。これでは単に(マーケターではない普通の人が)街で買い物をしただけで、有用な学びはほとんど何も得られていません。
しかし、いつも行くショッピングセンターで車の移動展示会(ホールなどに数台の実車が置かれ、自由に見たり触ったりできるイベント)が行われていたとき、理論を学んだ人は頭の中で以下のような学びを得ることができます。
- お、今日は◯◯(メーカーのディーラー)が移動展示会をやっているぞ
- これ結構お金かかるだろうなあ……(ショッピングセンターへ支払っている販促費とスタッフの労務費)
- でも、自動車は(開放的チャネル政策でも選択的チャネル政策でもなく)排他的チャネル政策が取られる商材だから販売チャネルはディーラーしかない
- ディーラーの弱みはお客さまとの接点が少ないこと。興味がある人は来店するが、さほど興味がない人はわざわざ来店しない(顕在顧客は来店するが、潜在顧客は来店してくれない)
- コストはかかるだろうけど、こうやって「いまはまだわざわざディーラーに行くほどホットじゃないけれど、すぐそこに実車があるならちょっと見てみたい」という消費者と接点を持てるのは有用なんだろうな
- あ、いま営業の人が促して客の一人が運転席に座ったぞ。続いて、奥さんと子どもが後部座席に座ってはしゃいでいる。この体験価値はテレビCMやDMで取得する情報の深さとは段違いだよな。これがイベントの効果か
- さすがにすぐに買うってことはないかもしれないけど、次に乗り換えを検討する際の想起集合には入るかもしれないな。「浅く広く」と「狭く深く」。「今日の売り上げ」と「明日の売り上げ」。こうやっていろいろな施策を組み合わせてマーケティングをやっているのか
などと解釈することができます。しかし、教科書でチャネル政策やマーケティングコミュニケーションの理論を学んでいない人は、自動車の移動展示会を見ても、単に「自動車ディーラーがショッピングセンターでイベントをやっていた」という情報しか受け取れません。
知らないものは見えません。見えるためには、知っている必要があります。知ったうえで見ようとするから、見えるのです。だから「まず学ぶ」ことが大事なのです。
抽象化されたものを現場(具体)で答え合わせする
概念やフレームは、具体から本質を抜き出し、パターンや法則を見いだしたものです。教科書で学んだ、概念やフレームが作られた具体→抽象のプロセスを、次に街に出たときに検証するのです。
マーケティングの基本であるSTP(Segmentation/Targeting/Positioning)を学んだら、翌日街を歩いているとき、STPのことばかり考えながら歩くのです。すると、以下のようなことが見えてくるはずです。
- この街は比較的年齢層の高いサラリーマンが多いから立ち食いそば屋が多いな。隣の街は若者が多いからこってり系のラーメン屋が多い。これがセグメンテーションとターゲティングか
- 同じ立ち食いそば屋でも、このお店は本格派で価格が高め、こっちのお店はセットメニューが豊富で価格が安め。これがポジショニングか
- このイタリアンのお店は意識的に女性客を取り込もうとしているな。逆にこっちのお店はほとんどが男性客だ。これは性別のデモグラターゲティングを意識しているっぽいぞ
- この2店は、どちらも女性客をターゲットにしているけど、こちらは洗練された都会の雰囲気で、こちらはアウトドアな雰囲気だ。これはサイコグラフィックなターゲティングって考えていいのかな。あとでググッてみよう……
また、価格理論を学んだ後にスーパーに行けば以下のようなことが見えるはずです。
- やっぱりエンド(棚の端)に大量陳列されて値引きがされていると飛ぶように売れているな。これが「価格弾力性が大きい」ってやつか
- 以前は98円(端数価格)のインパクトが大きかったけど、最近は税込み表記だから値付けも難しいよなあ
- この商品はいつも値引きしているから、値引きしてないと高く感じちゃうな。これが参照価格ってやつか
- 同じ野菜や魚でも◯◯産って書いてあると高い値付けができている。これが価格プレミアムかあ。ブランドってすごい
これらの「勉強」に使っている時間は0分です。にもかかわらず、この生活習慣は絶大な学習効果を生みます。仕事は1日原則7時間、土日は休みですが、生活は就寝時を除いてずっと続いているからです。全ての生活時間が「思考のアウトプットタイム」に変身するのです。
時間だけでなく、インプットしたことを「リアルなマーケティングの場」で答え合わせすることでリアリティーが増し、「頭で理解したこと」が「腹に落ちる」ようになります。「インプットしただけの知識」は忘れますが、「腹に落ちて納得したこと」は忘れません。
さらに、教科書を学んだことを生活の中で答え合わせをしていくと、新たな疑問が生まれてきます。例えば、価格戦略なら「教科書には伝統的な価格政策について書かれていたけど、最近の(旅館やテーマパークなどの)ダイナミックプライシングはどういう基準で決まっているんだろう。これからいろんな業界に広がっていくのかな」など、興味が広がっていくはずです。
こうなったらしめたもの。知の地平線が広がり始め、学ぶことが生活習慣に根付いてきた証拠です。
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