「マーケを学んだが、実践で使えない」 不足する“リアリティー”を磨く生活習慣術:トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(3/3 ページ)
マーケティングの基礎学習を重ねても、「なぜか実践で使えない」という事態に陥ることはよくある。その理由は「リアリティーの不足」にある。リアリティーを磨くために日常でできる習慣を紹介する。
「しなかったこと」をメタ化する
最後に生活習慣術の上級編を紹介しましょう。始めに伝えておきますが、これは意識してもかなり難しい方法です。習得まで時間がかかるかもしれませんが、この領域に到達すれば、学びのスピードが新幹線レベルまで上がりますので、ぜひいずれチャレンジしてください。
その方法とは「しなかったこと」「やらなかったこと」をメタ化する習慣です。
前述したAISASの検証や、街で買い物をしているときに意識することなどは、全て「見たこと」や「やったこと」を意識する方法です。これは、誰でも意識さえすれば一定のレベルで実践できます。
一方で「しなかったこと」「やらなかったこと」のメタ化は、「見なかったもの」や「考えなかったこと」を「見える化」する作業ですから、あらゆる「可能性の選択肢」が頭に入っていないと実行できません。前述した歯磨き粉を例に考えてみましょう。
- 実際にあったこと
- 新商品の歯磨き粉を買った
- 効いたこと
- テレビCM(認知と、いくばくかの興味)
- いつも行くお店への配荷
- 店頭POP(再想起)
- やらなかったこと
- Google検索
- Instagram検索
- YouTube検索
- レビュー検索
- 見なかったもの
- オウンドメディア(公式サイト)
- テレビCM以外の広告(出稿していたかどうか不明だが、YouTube広告も交通広告も見ていない)
- インフルエンサー投稿(実施していたかどうかは不明)
- 誰かの推奨(あったかどうかは不明)
自分の買い物において、上記の「やらなかったこと」と「見なかったもの」を意識できるようになると、購買に「何が効いたのか」だけでなく「何は効かなかった(影響を与えなかった)」のかまで把握できます。この作業を何十回も何百回も繰り返すと、商品カテゴリーごとのパターンや法則が見えてきます。
「Aの商品でも◯◯は影響しなかった」「Bもしなかった」「ということはつまり、AやBといった△△カテゴリーには◯◯は効きづらいようだ」という具合です。これが生活習慣の中で得られる「抽象の学び」です。
企業が行うマーケティングコミュニケーションは、およそ下記のファネルマップにある施策のいずれかですから、この図が頭に入っていると「選択肢」の中から影響を受けたことと、受けなかったことを整理できます。これを街の中で自然に行うのです。
これが日々の生活の中で自然にできるようになったら、あなたはもう立派なマーケターです。
右目はマーケター、左目は消費者
私は20代の頃から20年以上、こんなことばかり考えて生活をしています。この話をすると、「遊んでいても気が休まらなくて大変ですね」と言われますが、まったくそんなことはありません。
「好きなこと」とは、誰かに「やるなよ! 絶対やるなよ!」と言われても、どうしてもやってしまうことなのだと思います。この生活習慣は、私にとってまさにそれなのです。たとえ、やるなと言われても、やってしまう。なぜなら、楽しくて仕方がないからです。
私の右目はマーケターEye、左目は消費者Eyeでできています。
マーケターの仕事は、お客さまに買っていただくこと(=売ること)ですから、どうしてもマーケター目線が先行してしまう。「どうやったら売れるのか」「このメッセージが効くんじゃないか」「デジタルキャンペーンで……」などと、「売る視点」のオンパレードになってしまいがち。
そこで左目の出番です。「自分はそんなこと興味ないし、気にしたこともない」「そんな広告には気づかない」「そもそも必要ない」と、消費者Eyeが教えてくれます。
街を歩いていても、右目で「この商品のマーケターは私に〇〇を伝えたいんだな」とマーケティング情報をキャッチし、左目で「少なくともこのメッセージは私には響かないなあ……他のお客さんには届いているんだろうか」と消費者目線で検証する。そんなことを常にしているように思います。
マーケターの仕事は、人間の営みを科学し、お客さまに買っていただく再現性を高めることです。マーケティングは人間科学ですから、教科書で理論を学び、そこに血を流す(人の体温を感じるものにする)必要があります。それが今回紹介した生活習慣術です。お金は一円もかかりません。特別な学習時間を確保する必要もありません。ですが、効果は絶大。ノーリスク・ハイリターンです。ぜひ取り組んでみてください。
さて、9回にわたってお送りしてきたトライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ」。最終回となる次回は、当社が運営する「マーケティングが無料で学べるMARPS」の会員と、Xユーザー(主に池田のフォロワー)に聞いた「マーケティング学習」におけるお悩みQ&Aをお送りします。お楽しみに!
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当社(トライバルメディアハウス)では、本連載でご紹介している「筋の良いマーケティングの学び方」にのっとり、マーケターの「知る→わかる→できる」を支援するオンライン無料学習サービス「MARPS(マープス)」を提供しています。会員登録するだけで、池田+豪華ゲストのコンテンツをすべて無料でご利用いただけます。マーケティング全体を”体系的に”学びたい方は、ぜひ利用してみてください。MARPS(マープス)への登録はこちらから。
著者紹介:株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田 紀行
1973年生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上のマーケティング支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)のほか、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)など著書・共著書多数。X(旧Twitter):@ikedanoriyuki
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