ぎょぎょ、水の量が多すぎる? 札幌の水族館「AOAO」で“脇役”が主役になった舞台裏:週末に「へえ」な話(3/5 ページ)
札幌にできた水族館がちょっと話題になっている。施設名は「AOAO SAPPORO」。特徴は大きなサメもいなければ、イルカもいなければ、エイもいない。いわゆる“主役”がいない中で、どのように運営しているのか。
計算ミスで「アレもだめ、コレもだめ」
この話を聞いたとき、「まあ、そういうこともあるよね。水槽をちょっと小さくするとか、水をちょっと減らせば問題ないでしょ」と思っていたが、そうでもなかったのだ。当初、400トンの水を使う予定だったが、150トンしか使えないことが分かってきた。実に、60%ほど減らす必要があったのだ。
5%とか10%の話ではない。60%も減らさなければいけないとなると、抜本的な見直しが必要になる。計画を見直したのは、サメだけではない。一般的に、水族館では哺乳類も人気がある。アザラシ、アシカ、カワウソなどは表情が豊かで、人と目が合うことも。エサをあげる際には「ちょうだい、ちょうだい」をするので、来館者からは人気が高い。AOAOでも哺乳類の生育にチカラを入れていく予定だったが、大幅な変更を強いられることになったのだ。
オープン前は「アレもして、コレもして」と夢が膨らんでいたはずなのに、計算ミスで「アレもだめ、コレもだめ」となってしまった。できないことが増えていく中で、どのような手を打ったのか。ほとんどの読者は気付いていると思うが、脇役の登場である。
例えば、5階を見てみよう。先ほど紹介したように43本の水槽が並んでいるわけだが、それぞれに特徴がある。「ヘコアユ」は頭を下に向けて泳いでいるし、エリンギのようなカタチをしている「イソンギンチャク」もいるし、見た目がもさもさしている「ウミシダ」もいるし、ぺったんこのカエル「ピパピパ(コモリガエル)」もいる。
AOAOに足を運んだお客からは、このような声がよく届くという。「頭を下げているヘコアユはきれいだった。こんな魚、見たことがない」「ぺったんこのカエルを初めて見た。おもしろいね」と。しかし、である。AOAOに展示されている生物の多くは、他の水族館でも泳いでる。にもかかわらず、なぜ「初めて見た」といったコメントが多いのか。
これは仮説になるが、多くの人は水族館に行って「シャチがよかったよ。迫力があってやっぱりいいよね」「エイが泳ぐ姿は優雅だったよなあ」といった具合に、主役の話で盛り上がる。もちろん、そこには脇役も存在しているが、主役のイメージが強すぎて、記憶が残っていないのではないか。
当初、予定していた計画は大幅な変更を余儀なくされたので、AOAOのスタッフは残された40%の水で何ができるのかを考えた。「あれもできる、これもできる」ではなく「あれもできない、これもできない」という状況の中から、「これとこれを展示して、伝え方を工夫しよう」となったのだ。
他の水族館でも見られる脇役を主役に――。発想を逆転させることで、独自色を打ち出すことにしたのだ。
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